P-II-G-2
乳幼児期にみられる稀有な心筋症―Vici症候群の 1 例―
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発達病態小児科学講座
佐藤裕幸,宮田理英,佐々木章人,脇本博子,土井庄三郎

Vici症候群は,脳梁欠損,眼・皮膚白子症,重度発達遅滞,易感染性,心筋症を呈するまれな疾患で,現在までに 3 文献,8 例の症例報告のみである.今回われわれはVici症候群と考えられる 1 女児例を経験し,拡張型心筋症の経過を観察することができたので報告する.症例は当院初診時 4 カ月の女児.重度発達遅滞精査のため紹介入院となった.脳梁欠損,白子症を認めVici症候群と診断した.同時に各種検査を施行し,VEPとEEGにおける異常所見および筋原性酵素の上昇(CK,ALD,AST,LDH)を認めた.尿中アミノ酸・有機酸分析,血中・髄液中の乳酸,ピルビン酸および内分泌学的検査に異常は認められなかった.なお,この時点では心臓の収縮能,内腔径や壁厚に異常所見は認められなかった(LVEF 0.69,LVDd 23.6mm,LVPWth 4.6mm).その後も感染を繰り返し,頻回に入院加療を必要としたが,明らかな免疫学的異常は認められなかった.9 カ月時の心臓超音波検査にて拡張型心筋症様の変化(LVEF 0.56,LVDd 29.0mm,LVPWth 5.5mm)を認めた.利尿剤(furosemide,spironolactone),ACE阻害薬(enalapril 0.1mg/kg/day)を開始,0.2mg/kg/dayまで漸増したが,LVEFの低下およびLVDdの拡大は 1~2 カ月でさらに進行した(LVEF 0.42,LVDd 36.6mm).その後βブロッカー(carvedilol 0.02mg/kg/day)の投与開始により,左室心筋収縮能の一時的な改善を認め(LVEF 0.53,LVDd 39.3mm),投与量の漸増を考慮していたが,11カ月時に気道感染を契機に呼吸不全が増悪し死亡した.現在までに報告されている症例では,8 例中 6 例が死亡(感染症 3 例,心筋症 3 例),また 8 例中 7 例に心筋症が認められている.

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