B-III-18
胎児循環における静脈管の異常が及ぼす影響
東京大学医学部小児科
渋谷和彦,戸田雅久,中村嘉宏,杉村洋子,賀藤 均

【背景】静脈管は動脈管と同様に胎児の循環動態において重要な役割を果たし,その異常は循環の破綻を来して重篤な心不全や胎児水腫の原因となりうる.しかしながら,これまで静脈管の異常は比較的まれな病態とされ,また,出生後に静脈管の異常を診断することは極めて困難であることから,小児循環器領域において注目されることはなかった.われわれの施設において経験した胎児心エコーにより診断した静脈管の異常の症例をまとめ,胎児循環に及ぼす影響を検討した.【症例】1999年 1 月より2004年 1 月までの 5 年間で,胎児心エコーにより当科にて静脈管の異常と診断した症例は全部で 5 症例あった.当科で胎児心エコーを実施した理由は,産科医によるスクリーニング超音波検査にて 3 例が心拡大,1 例が腹水,1 例が胸水であった.3 例が静脈管の閉塞あるいは無形成により,臍静脈の血流が門脈を介し肝循環を通過して右心房に戻る循環動態を示していた.また,残る 2 例は正常な静脈管の形成を認めずに,臍静脈が直接に右心房あるいは下大静脈に結合することで,胎児循環を維持していた.全 5 例とも,胎児心不全を来しうるような重篤な心奇形は合併していなかった.出生後の経過はいずれの症例も比較的良好であり,心不全の悪化,腹水や胸水の増加などは認められず,1 例は,門脈と体循環のシャントが残存したために生後 1 カ月以降に開腹にて結紮術を施行した.【考案】静脈管は,単に臍静脈から右心房への短絡血行路というだけではなく,臍静脈血流の量と速度を制御して有効に卵円孔を通過させ左心系に酸素濃度の高い血流を送る重要な役割を担っていると推測される.しかし,その機能と制御の詳細は十分に解明されていない.今後とも胎児心エコーがますます盛んに施行されるに従い,静脈管の機能や異常に関する報告が増えると思われる.胎児心不全や胎児水腫の原因を診断する場合には,静脈管の異常を常に念頭に置く必要があると考える.

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