会長講演 
学校心臓検診,30年
日本大学医学部小児科
原田 研介
 私が学校心臓検診に初めて関わったのは1975年です.それ以来,今年で30年になります.この30年についてお話ししたいと思います.

1.学校心臓検診への関わり
 1975年,米国から帰国し,日本大学小児科に帰った時,日本で学校心臓検診というものが行われていることを知りました.私の恩師,大国真彦先生が学校心臓検診について,いろいろ研究されていました.この年の 2 年前,1973年に学校保健法施行規則が改訂され,児童・生徒の心臓検診が義務化され,学校の検診の必須項目になっていました.大国先生はどのように心臓検診を行うのがよいか,検診のシステムと方法を考えられていたようです.ある日,どのような誘導で心電図をとるのが効率的と思うか,という質問を受けました.私は不整脈,電気軸,心室肥大,ST-Tをある程度みるために,I,aVF,V1,V6 の 4 誘導が良いのではないかと言いました.その時,すでにこれらの誘導を用いていた地域もあったようですが,この誘導が省略 4 誘導心電図として,学校心臓検診で用いられるようになりました.
 私は学校心臓検診はあまり好きではありませんでしたが,教室の仕事でありましたので,検診に参加していました.1979年,IBMパートナーシッププログラム「小児心電図の児童診断基準の研究」が始まりました.日本大学小児科もこの研究に参加し,私はその担当をさせられました.コンピュータで解析する初めての心電図計であったのではないかと思います.この研究に参加したことで,学校心臓検診に深く関わることになったと思います.ミイラ取りがミイラになったわけです.

2.突然死の予防
 学校心臓検診の最も大きな目的は「突然死の予防」です.1990年頃であったと思いますが,学校保健会が学校管理下での突然死の研究を行うことになりました.これは,医師のみではなく,養護教員,体育教師,校長なども入った研究班でした.この時初めて,日本における学校での死亡について知ることができました.そして,突然死を減らすために,優れた学校心臓検診を行わなくてはならないと思いました.それ以来,日本体育・学校健康センター(現:独立行政法人日本スポーツ振興センター)と協力して突然死の現状を調査・研究しています.
 学校管理下での突然死は減少傾向にあります.これは学校心臓検診によるところが大きいと思います.特に,1994年,小学 1 年,中学 1 年,高校 1 年に心電図検査が義務づけられてから,学校での突然死の傾向は変わってきました.さらなる努力が必要です.

3.これからの学校心臓検診
 学校心臓検診の方法も変わりつつあります.高い一定した精度を維持し,向上させるために多くの努力がなされています.いくつかの基準,管理基準のめやすなどが作られています.心エコー検査も用いられるようになりました.しかし,検診の方法,判定などに関して,まだ不十分な地域もみられます.学校心臓検診の向上のためにさらなる努力が必要であると思います.データの保存も問題です.成人になっても利用できるデータ管理が望まれます.


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