教育講演 |
子どもの権利と臓器移植 |
千葉大学大学院専門法務研究科 後藤 弘子 |
臓器移植法(1997年)の改正論議の中心は,子どもからの臓器提供の是非にある.現在のガイドラインに従えば,15歳未満の子どもは臓器提供ができない.そのため,子どもには海外での移植の道しか残されていない.その現状を変えるために,臓器移植法が見直されようとしている. 子どもの臓器移植は,自己決定権を最大限尊重している現在の臓器移植法において,法的に有効な意思表示を行えないドナーとレシピエントの権利をどう保障するのかという問題として現れる.この困難を回避するため,従来は15歳未満の臓器提供を認めなかったが,今回の改正提案は,明示の拒否の意思表示がない限り,家族の同意ですべての臓器提供を可能にすることで,子どもからの臓器提供への道を開こうとしている. 自己決定権を尊重することができない子どもの場合,「子どもの最善の利益」という別の権利保障形態が必要となる.臓器移植の場合,「レシピエントの最善の利益」は,比較的簡単に認められるかもしれないが,臓器提供が「ドナーの最善の利益」になるかどうかはかなり疑わしい.子どもの脳死が虐待による場合が少なくないことも念頭に置かなければならない.子ども本人の利益にならないだけではなく,親の虐待によったかもしれない脳死の子どもからの臓器提供を,親の承諾によって認めることが,子どもの権利保障にならないのは当然である.そのため,改正提案は,一律な自己決定権の尊重よりも,臓器移植の必要性を優先することで,「子どもの最善の利益」という権利保障を不要にするという選択を行わざるを得なかったのである. 本講演では,以上のような子どもの臓器移植に関する問題を検討することで,医療現場における子どもの権利保障の担い手として,看護職がどのような役割を果たすべきか,また果たせるのかについて考えてみたい. |
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