ランチョンセミナー3 
動脈管依存性心臓病とプロスタグランディンE1(PGE1)―PGE1製剤を選択する時代へ―
福岡市立こども病院循環器科
石川 司朗
 PGE1による動脈管開存作用は1975年のElliotらによる臨床報告に始まる.現在,PGE1製剤は 3 種類あり,欧米で臨床応用されている米国Upjohn社(現Pfizer社)のエタノール可溶化PGE1製剤,本邦小野製薬のPGE1・a-シクロデキストリン(α-CD)製剤,および本邦と韓国で承認されているミドリ十字(現三菱ウェルファーマ)と大正製薬のリポ化PGE1製剤である.PGE1製剤の導入は大血管転位,肺動脈閉鎖を合併した複雑心奇形,大動脈離断といった動脈管依存性心臓病の治療成績向上に大いに貢献した.
 本邦のPGE1による動脈管開存療法はα-CD製剤が開発された1977年に始まる.α-CD製剤は慢性動脈閉塞症に承認され,振動病,血行再建術後の血流維持へと適応が拡大されたが,動脈管開存を目的とした保険適応は行われなかった.1986年にリポ化製剤の動脈管拡張作用の有効性と安全性が報告され,1988年本邦で承認された.リポ化製剤は肺での失活が少なく作用時間が長い半面,作用発現に時間を要するため緊急に動脈管を開存する必要がある症例には適さず,また高用量が必要な症例では無呼吸,高脂血症などの副作用も増加する.このため,これらの症例に対してはα-CD製剤へ変更するか,初めからα-CD製剤を選択することが必要であった.2000年,本学会から厚生労働省に対してα-CD製剤の適応症として「動脈管依存性心臓病における動脈管開存」を追加承認する旨の要望書が提出され,2003年10月にα-CD製剤がやっと本疾患の動脈管開存に保険適応された.
 リポ化製剤とα-CD製剤の動脈管開存効果と副作用を比較検討した論文はこれまでにも複数ある.しかし,α-CD製剤はリポ化製剤不応例を中心に使用されてきたため,両製剤を同等の状態の患者で比較した報告はない.リポ化製剤は 5ng/kg/分で開始することが勧められ,その有効性は一定のコンセンサスを得ている.一方,α-CD製剤は高用量(50~100ng/kg/分)で開始し適宜増減し有効最少量で維持することが勧められているだけで,リポ化製剤と同等の少用量での有効性は検討を要する.今後,α-CD製剤とリポ化製剤のどちらが良いかではなく,どのように使い分けるかが課題となるであろう.
 肺血流維持や体循環の確立が外科的に必要な動脈管依存性心臓病では,PGE1は生命維持装置の役目をする.副作用として発熱,無呼吸発作,消化器症状,多毛,骨膜肥厚などが挙げられるが,これらも好ましくない主作用と考えて十分な観察と対応が必要である.講演では当院におけるPGE1製剤を用いた動脈管依存性心臓病の治療戦略についても紹介する.


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