ランチョンセミナー4 
Fcγレセプターを介する自己免疫の制御とIVIGの作用機序
東北大学加齢医学研究所・遺伝子導入研究分野,
科学技術振興機構戦略的基礎研究推進事業(CREST)

高井 俊行
 B細胞は自らが作り出した抗体と抑制性のFcγレセプター(FcγR)であるFcγRIIBRIIB)を介してB細胞自身やマクロファージ(Mφ)などのエフェクター細胞にネガティブ・フィードバックをかけることで末梢性寛容を維持する.したがってRIIBが欠損したマウスはIV型コラーゲンを免疫することでGoodpasture症候群様の自己免疫疾患を誘導できたり,II型コラーゲンを免疫することで通常のモデルマウスよりも重篤なコラーゲン誘導関節炎を誘導できるなど,さまざまな自己免疫疾患を顕著に誘導することが可能である.さらに,自然発症する自己免疫疾患モデルにおいてもRIIB欠損マウスは興味深い性質を提供してくれる.MRL.lprマウス,つまりFas変異を持つMRLマウスは自然発症性の全身性自己免疫疾患の代表例であるSLEのモデルであるが,これに対してC57BL/6 に戻し交配したC57BL/6.lprマウスはSLEを一切発症しない.したがってC57BL/6.lprにあるSLE抑制性の因子が何であるのかが興味を持たれていたが,最近C57BL/6.lprであってもRIIB欠損を導入するだけで顕著な自己抗体の産生を伴った,ほぼ完全なSLEが再現できることが示された.よって少なくともマウスにおいては多因子疾患であるSLEの発症にはlprRIIB欠損の合併で十分であることが分かった.このほかにもRIIB欠損マウスで誘導される,あるいは自然発症する自己免疫疾患モデルの例は今後も増加すると思われ,これらとヒトの疾患との相同性,相違点などを注意深く解析していく必要がある.なおマウスのFcγRは 3 種であるがヒトのFcγRは 6 種あるうえ,それぞれを区別する方法として有力なモノクローナル抗体の特異性に限界があるため,個別のFcγR分子の解析は困難であることなどから,ヒトRIIBにポイントを絞った研究は顕著な進展をみていない.
 さて,患者に多量のγグロブリンを静注する,いわゆるIVIG療法が多くの自己免疫疾患で有効であるが,その理由はよく分かっていない.最近これに関連して,マウスのimmune thrombocytopenic purpura(ITP)モデルにおいてIVIGの有効性はMφ上のRIIBの発現上昇を誘導することにあるとする報告がなされた.さらにK/BxNマウスの自己免疫性関節炎モデルではM-CSF依存性のMφがIVIGのFcを認識するセンサーとして働き,M-CSF非依存性のエフェクターMφ上のRIIB発現を上昇させるという仮説が提唱されている.小児循環器領域において重要な川崎病では明確な自己抗体の関与についての証明はなされていないものの,急性期治療の第一選択薬としてIVIGがあるため,これとFcγR,とりわけRIIBとの関連は注目されるところであろう.講演では最近のRIIBとIVIGに関する話題を概観しながらIVIGとRIIBの今後のゆくえを議論したい.


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