ランチョンセミナー8 
川崎病におけるヒト免疫グロブリン療法の作用機序─転写因子NF-κBおよび免疫グロブリン受容体の面から─
山口大学医学部生殖・発達・感染医科学講座 / 小児科学
古川  漸
 川崎病におけるヒト免疫グロブリン(IVIG)の作用機序について単球/マクロファージ,Tリンパ球および血管内皮細胞を中心に転写因子nuclear factor κB(NF-κB)および免疫グロブリン受容体FcγRの面から検討した.NF-κBの活性化と抑制およびFcγRの解析はフローサイトメトリー,ウエスタンブロット,RT-PCRで検討した.

1.細胞内転写因子NF-κBの面から
 1)臨床での検討
 川崎病の末梢血では急性期にCD14+単球/マクロファージおよびCD3+Tリンパ球のNF-κBの活性化がみられ回復期に低下した.特にCD14+単球/マクロファージでのNF-κB活性化がCD3+Tリンパ球に比し顕著で,IVIG投与後すみやかに低下した.
 2) 培養細胞での検討
 ヒト単球系 (U-937 cells),T細胞系(Jurkat cells),正常冠動脈内皮細胞(coronary artery endothelial cells:CAEC)の培養細胞を用いて,TNF-α刺激によるNF-κB活性化に対するIVIGの抑制効果を検討した.
 (1) U-937,JurkatおよびCAECにおいてIVIGはNF-κB活性化を抑制し,その抑制効果は濃度依存性で,Jurkatに比しU-937でより強くみられた.
 (2) IVIGはU-937およびCAEC においてNF-κB活性化抑制蛋白であるIkBaのdegradationを抑制した.すなわちIVIGの抗炎症作用はIκBαを保護することによる.
 (3) CAECにおいてIL-6産生とE-selectin発現はIVIGで有意に抑制された.
 以上,IVIGは主として単球/マクロファージおよび血管内皮細胞においてNF-κB活性化を抑制し,抗炎症作用を発揮することが示唆され,臨床でみられたIVIG投与後末梢血のCD14+単球/マクロファージにおけるNF-κB活性化が著明に抑制されたin vivoの成績を反映した.

2.免疫グロブリン受容体FcγRの面から
 単球/マクロファージにはactivation receptorとしてFcγRIIIが存在し,U-937では10~15%,ヒト末梢血CD14+単球/マクロファージでは10~20%発現する.最近inhibitory receptorとしてFcγRIIbの存在が報告され,マウスではマクロファージの貪食能を抑制し,IVIG投与で増加することが知られている.U-937,ヒト末梢血CD14+単球/マクロファージにおけるFcγRIIb発現はいずれも数%である.
 1)臨床での検討
 単球/マクロファージのサブポピュレーションであるCD14+CD16+(FcγRIII)単球/マクロファージは炎症に強く関与するサブポピュレーションで,川崎病急性期には末梢血CD14+CD16+(FcγRIII)単球/マクロファージの増加がみられ,その増加は重症度と相関し,IVIG投与後低下した.
 2)培養細胞,正常ヒト末梢血での検討
 (1) IVIGはU-937,ヒト末梢血CD14+単球/マクロファージにおけるFcγRIIIの発現を濃度依存性に抑制し,その抑制は一過性であった.
 (2) ウエスタンブロットおよびRT-PCRによる解析では,IVIGはFcγRIIIの発現量に影響を与えなかった.
 以上のことから,IVIGは単球/マクロファージのactivation receptor FcγRIIIを一過性にblockすることが示唆され,臨床でみられたIVIG投与後末梢血CD14+CD16+(FcγRIII)単球/マクロファージが低下したin vivoの成績を反映した.マウスで観察されたIVIG投与によるinhibitory receptor FcγRIIbの増加はみられなかった.
 IVIGは微生物に対する作用のほかに抗炎症作用を期待して使用されることが多い.IVIGの作用は多彩であるが,抗炎症作用のメカニズムの一端を明らかにした.


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