ランチョンセミナー11 
手術室における安全管理─小児心臓外科手術の安全性の確立に向けて─
東京女子医科大学麻酔科
野村  実,向井詩保子,森野 良蔵,尾崎  眞
 小児心臓外科手術における周術期管理は,心臓外科医,麻酔科医,看護師,臨床工学士などの緊密な連絡が重要である.しかし心臓外科手術,特に小児先天性心疾患の全過程を把握するには高度の知識が必要であり,その情報を逐次伝えることは難しい.
 心臓麻酔領域における最近の大きな進歩は,麻酔深度モニター,脳酸素飽和度モニター,持続心拍出量モニター,経食道心エコー(TEE)などの術中モニタリングの出現である.成人開心術は日本においてもTEEがかなり普及してきたが,小児TEEはプローブの大きさのmismatchingによる合併症や,その高度な解剖学的知識の習得が診断に必要なことが麻酔科医への普及を妨げている.しかし,小児TEEは成人で一般的に考慮されている心機能や弁評価など以外にもさまざまな病態の把握が可能であり,術後起こりうる解剖学的修復の評価を観察する唯一の手段である.われわれの施設では小児TEEを全例試行しているが,TEEを施行した先天性心疾患患者(20歳未満)の症例を 1 年間にわたり検討した.282例中207例(73%)に小児TEEモニタリングを行い,プローブの挿入および操作による,術中の大きな合併症は特になかったが,5 例(1.7%)に最初の留置で抵抗を生じ,プローブサイズを変更した.207例中25例(12%)で術中のTEEで手術方法の変更を行った.このように人工心肺直後における評価は直接手術した心臓外科医でも完全に把握できないため,その解剖学的修復がどの程度行われたかの術式の評価を行う必要がある.
 TEEは質的な診断であるが,今までの圧モニターやそれに伴う術中記録の把握は重要な情報を与える.われわれの施設では,自動麻酔記録を導入しているが,経時的にとらえられた種々のデータは,術中起こったイベントの解析に重要である.また,それを術中および術直後に解析することで周術期のさまざまな出来事を理解することができる.人工心肺技師や看護師と麻酔科医,心臓外科医の連携を行ううえで貴重な情報源となる.
 このような画像診断と周術期の記録は,複雑と言われる小児心臓外科手術を理解するうえで必須なものになってきていると考えられる.手術室の安全管理の視点から,わたしどもの手術室で行われている実際を紹介したい.


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