D-I-3
小児心疾患患者における塩酸バンコマイシンのtherapeutic drug monitoring
─ベイジアン法とソーチャク・ザスケ法の比較─
埼玉医科大学小児心臓科
竹田津未生,先崎秀明,熊倉理恵,岩本洋一,熊谷晋一郎,杉本昌也,石戸博隆,松永 保,小林俊樹

バンコマイシン(VCM)は,小児心疾患患者において治療に難渋するMRSA感染症に有用であるが,小児では年齢と体重から予測した体内分布容積のみから初期投与設計を行うため,体内分布容積や低心拍出によるクリアランスの変化が予想される心疾患患者においては初期投与設計で適切な血中濃度を得られないことが多く,有効安全域を保つためには,血中濃度モニタリングにより個々の薬物動態を推定し投与計画を設定(therapeutic drug monitoring:TDM)する必要がある.小児心疾患患者におけるTDMで,小児の母集団パラメータに基づいた予測を行うベイジアン法(B法)と個々のパラメータに基づくソーチャク・ザスケ法(S法)のどちらがより適した方法であるかを検討した.【方法】2002~2004年にVCMのTDMを行った24例を対象とし,VCM開始後の血中濃度から次の投与計画における血中濃度をB法,S法により推定,実測値との差を比較した.【結果】初期投与計画における初回血中濃度は有効域に満たない例が 7 例,中毒域に入る例 4 例で,血中濃度が有効安全域に入った例は半数に過ぎなかったが,TDM後は18例が有効安全域の血中濃度を得られた.B法による推定値は実測値とピーク7.2 ± 4.4,トラフ2.9 ± 3.3,S法ではピーク6.6 ± 4.7,トラフ2.9 ± 2.8mg/lの差がみられ,B法,S法に差はなかった.症例を心不全のある11例とない13例に分けると,ピーク値ではB法,S法とも心不全の有無と実測値・予測値の一致度に差はなかったが,トラフ値では両法とも心不全のある症例で実測値と予測値の差が大きい傾向にあり,2 例で予測値は安全域にあるにもかかわらず,実測値は中毒域に入っていた.【結語】小児心疾患患者におけるTDMでは,B法,S法とも同様に有用であるが,心不全のある症例ではトラフ値の予測が困難なことがあり,これらの例ではTDMを頻回に行い有効安全域に保つ必要がある.

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