D-I-29
川崎病冠動脈病変に対し,ヘパリン運動療法が有効であったが,遠隔期に側副血行が減少した 1 症例
埼玉医科大学小児心臓科
熊倉理恵,小林俊樹,岩本洋一,熊谷晋一郎,杉本昌也,石戸博隆,増谷 聡,松永 保,竹田津未生,先崎秀明

【背景】ステント留置術,ロータブレータが適応外とされた川崎病後の冠動脈病変患者に対し,ヘパリン運動療法を行ったところ,虚血の軽減に有効であったが,遠隔期に側副血行が減少した症例に対し,ヘパリン運動療法を再開したところ,運動時臨床症状・心電図所見に改善が得られた症例を経験したため報告する.【症例】18歳女性.1988年 4 月,2 歳10カ月時に川崎病に罹患.心エコー上,右冠動脈瘤10mm,左冠動脈瘤12mmを生じた.10歳時の冠動脈造影では右冠動脈segmental stenosis,左前下行枝は 2 連の冠動脈瘤前後に狭窄を来している状態で,左冠動脈領域に有意な側副血行路は認められず,トレッドミル検査でV4~6 のST低下がみられた.【経過】虚血が進行したと判断され,側副血行路の発達を期待しヘパリン運動療法が施行され,左前下行枝領域への回旋枝からの側副血行路が明らかに発達し,左前下行枝末梢径も増大した.しかし外来の運動負荷検査にて再度胸部違和感が出現,心電図上ST上昇が認められたため,治療 4 年後に,心臓カテーテル検査を施行.左前下行枝領域への回旋枝からの側副血行路は減少を示していた.このために約月 1 回のヘパリン運動療法を再施行したところ,直ちに症状と心電図所見の改善が認められた.【考察】自然に発生した側副血行路は運動負荷時の心筋虚血を予防するには不十分であるとされる.持続する虚血は側副血行路の産生を促し,虚血により生じた側副血行路は心筋保護に一役買ってはいるが,運動時などの酸素需要量の増加に見合った血流の供給には,不十分であることが多い.線維芽細胞増殖因子(FGF),血管内皮増殖因子(VEGF)などの増殖因子の虚血部における産生はこれら側副血行路の発達を促す一因子であり,ヘパリンはこれら増殖因子の作用を一部増強するとされている.しかし,一度増殖した側副血管は負荷がかからなければ減少してしまう可能性が示唆された.

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