E-I-11 |
小児の左室心筋strainの測定―正常値と臨床応用― |
徳島大学発生発達医学講座小児医学分野
森 一博,枝川卓二,阪田美穂,香美祥二 |
【目的】strain(ε)とは心周期における心筋の変形の度合いである.最新の心エコー装置では,種々の方向の心筋strainの測定が可能となったが,小児における正常値の報告は少ない.本研究では,小児の正常値を算出し,その臨床応用を試みた.【方法】対象は正常小児45例(年齢10.0 ± 7.6歳).東芝製Aplioを用い,左室短軸断面から,右室・中隔・左室後壁の収縮期strainを測定した.測定に際しては,tissue trackingおよびROI trackingを併用し,初期長は 3mm,ROIは壁厚の約 1/2 とした.また,6 歳以上の20名については,ROIを横長として(1 × 10mm),左室後壁を内膜側と外膜側の 2 層に分けて,そのおのおののεを測定した.臨床応用として,SF > 30%の進行性筋ジストロフィ(DMD)患者20名でも同様の測定し対比した.【結果】(1)右室,中隔,左室後壁のεは41 ± 33%,52 ± 18%,97 ± 32%で,左室後壁は前 2 者に比して有意に大であった(p < 0.001).(2)左室後壁のうち,内層は外層に比してεが有意に大であった(131 ± 33% vs. 63 ± 23%,p < 0.001).(3)DMD群では中隔のεは正常であったが,左室後壁のεは有意に低値であった(40 ± 17%,p < 0.001).特に,後壁外側のεの低下が著しく,「正常平均値-2SD」を正常下限とした場合,7 例が異常低値(ε < 17%)であった.そして,そのうちの 5 例は陰性ε(収縮期菲薄化)を認めた.すなわち,SFが正常でも約 1/3 で左室後壁外側のεが障害されていた.【考察】本研究の結果,左室心筋のεは均一ではなく,後壁,特に内膜側のεが高値であることが判明した.横長のROIを用いることで,心筋の収縮を内膜側と外層膜側に分けて評価することが可能で,DMD の心筋病変(外膜側が障害されやすい)の早期発見のみならず,虚血や抗がん剤による心毒性(これらは左室の心内膜側が障害されやすい)の早期発見にも有用である.本研究の正常値を用いて,小児科領域での応用が期待される. |
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