P-I-A-4
自覚症状と内科的経過観察の見地からみたRoss手術の適応
兵庫県立こども病院循環器科1),兵庫県立こども病院心臓胸部外科2)
城戸佐知子1),鄭 輝男1),佃 和弥1),藤田秀樹1),山口眞弘2),芳村直樹2),吉田昌弘2),松久弘典2)

【目的】小児のRoss手術の適応を考える際に特に問題となる点は(1)手術に踏み切る時期,(2)弁置換術のoptionの 2 点と思われる.特に小児科の関わる年齢では自覚症状が乏しく,また運動への嗜好が強いため,成人の適応や考え方をそのまま適用できるのか,内科的経過観察のうえで迷うこともある.この見地から,これまで当院でRoss手術を施行した11例を自覚症状の有無から後方視的に検討し,成人の基準に照らし合わせて適応を確認した.【症例】11症例〔大動脈弁狭窄(AS)8 例,大動脈弁閉鎖不全(AR)2 例,ASR 1 例〕を明らかな自覚症状(またはそれに相当する他覚所見)を有する群(有群)5 例と,無症状群(無群)6 例に分けて検討した.Ross手術に至った直接の契機は,有群ではすべてAR,無群ではAS 3 例・AR 2 例・ASR 1 例であった.【結果(有群/無群で表記)】手術時年齢:8.03/11.12歳,外来・入院下でのfollow up期間:5.87/9.82年,LVFS:0.28/0.38,LV-Ao圧較差:46/32mmHg,LVEDV(%of normal):219/143%,LVEF:60/66%,LVEDP:17/13.6mmHg,ESVI(ml/m2):55.3/36.6,EDVI(ml/m2):130/104.成人のAS治療の適応である安静時圧較差50mmHg + NYHA II度以上を満たすものは無群の 1 例に過ぎなかったが,有群ではほとんどの症例でLVEDP(> 18)・ESVI(> 50)・EDVI(> 100)の適応基準を満たし,ARによる左室拡大や心機能低下による症状・検査所見が,無群に比べて明白であった.一方,年齢などからAVRのoptionがあり得たのは 7 例で,Rossを選択した理由としては,患者が低年齢(人工弁のサイズの問題)3 例(2/1),感染性心内膜炎 1 例(1/0),患者の希望 4 例(1/3)などで,うち 3 人が運動部に所属していた.【結論】小児の場合AR症例では多くの場合自覚症状を認め,成人の適応基準を適用しRoss手術を選択してもほぼ妥当であるが,自覚症状のない場合には,患者の運動制限への抵抗がRoss手術へ向かわせる一因となり,時期やAVRのoptionについてもまだ検討の余地があった.

閉じる