P-I-G-6
肺動脈絞扼術前後における急性期肺血管床応答の定量的分析
東京大学医学部小児科1),東京大学医学部心臓外科2)
中村嘉宏1),村上 新2),前田克英2),高岡哲弘2),小野 博1),戸田雅久1),杉村洋子1),渋谷和彦1),賀藤 均1)

【背景】新生児・乳児の肺血流増加を伴う先天性心疾患に対し,肺血流減少の目的で肺動脈絞扼術が行われる場合があるが,肺動脈絞扼により,流量減少効果によって肺血管抵抗は上昇に傾くのか,あるいは減圧の効果によって肺血管抵抗は減少に傾くのか,その肺血管床変化の定量的評価はこれまであまり行われていない.われわれは,肺動脈絞扼術による流量・圧変化に対する肺血管床の急性期対応を,肺体血管抵抗比という観点から評価を試みた.【対象】われわれの施設において,2002年 3 月~2003年 7 月に肺動脈絞扼術の行われた心室中隔欠損 4 例,完全房室中隔欠損 3 例,単心室 1 例の計 8 例を対象とした.【方法】肺動脈絞扼術術中に,絞扼前後の肺体動脈圧および肺体血流比を測定し,肺体血管抵抗比の変化を評価した.肺動脈圧は術中に実測し,右房圧,左房圧は中心静脈圧で,大動脈圧は上肢の動脈ライン圧で代用した.肺体血流比は,肺動脈,動脈,中心静脈の血液採取と,PV Sat O2 = 99%と仮定して算出した.【結果】(1)肺動脈絞扼術によって動脈平均圧は47.1 ± 9.5~51.5 ± 10.3mmHgに有意に上昇し,肺動脈平均圧は25.1 ± 7.5~18.0 ± 6.9mmHgに有意に低下した.動脈血酸素飽和度は93.4 ± 9.1~89.0 ± 12.9%に有意に低下した.(2)肺体血流比は2.59 ± 1.14~1.40 ± 0.16に有意に低下した.肺体血管抵抗比は0.20 ± 0.08~0.18 ± 0.06に低下したが有意差は認めなかった.数値はすべて平均値±標準偏差で示した.【考察】肺動脈絞扼前後における急性期の肺血管抵抗は,有意な変化を認めなかった.流量変化および圧変化の肺血管床に及ぼすそれぞれ逆の効果が相殺されたためと考えられた.因みに,肺体血流比変化率 = 1.0844*肺体圧較差変化率 + 0.0128(RΛ2 = 0.9846)であり,この結果から,術中では(肺動脈平均圧-中心静脈圧)の前後比が,肺血流の前後比に相当すると推定可能である.

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