P-I-A-11
新たな組織トラッキング法による小児の心筋strain正常値
徳島大学発生発達医学講座小児医学分野
阪田美穂,森 一博,枝川卓二,香美祥二

【目的】局所心筋の収縮(strain)は直交する 3 方向(短軸・長軸・円周方向)の運動で表示できる.最近,断層心エコーで「二次元断層のデジタル画像」のパターンマッチングにより,心筋の任意の部位の運動を追跡する手法が開発された.これによりMRI tagging法と同様の解析図が描出される.本研究では,この組織トラッキング法を用いて正常小児の左室心筋strainを測定した.【方法】生後 3 カ月~24歳の健常児34名.装置は日立EUB8500を用い,左室短軸断面および心尖部四腔断面からデジタル画像を記録し,上記 3 方向の収縮期strain(%)を測定した.【結果】(1)円周方向strainは,左室後壁(-38 ± 10%),中隔(-34 ± 16%)で有意差を認めなかった.(2)長軸方向strainは,左室自由壁(-32 ± 7%)と中隔(-28 ± 8%)に比べ右室自由壁で大きかった(-46 ± 9%,p < 0.0001).(3)短軸方向のstrainは中隔に比べ後壁で大きかった(33 ± 10% vs.51 ± 13%,p < 0.0001).【症例】拡張型心筋症で両室ペーシング(BVP)を施行し,QRS幅は短縮したにもかかわらず心不全の改善のない 2 歳女児.BVP後であるが,3 方向とも中隔strainは異常低値で,特に短軸方向では-10%と収縮期に菲薄化し,左室心筋の協調運動が不十分であることが示された.【考察】本手法により,任意の部位で 3 方向の心筋strainの測定が可能になった.本研究から左室心筋の収縮は,測定する部位と方向により,必ずしも均一でないことが示された.本法は速度情報によらないためビームに直交する 2 点間の評価も可能である.一方,弱点としては,(1)心外膜のように著しく輝度の高い構造物には引き寄せられ,真の動きを過小評価する点,(2)画像が不鮮明な例では正確な測定ができない点が挙げられる.本研究の正常値をもとに,今後さまざまな疾患での臨床応用が期待される.

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