P-I-B-7
著明な左心機能低下を来した両側Wilms腫瘍の 1 例
佐賀大学医学部小児科
西村真二,田代克弥,濱崎雄平

【はじめに】Wilms腫瘍では高レニン血症に伴う高血圧症の合併頻度は高いが,心不全に至ることはまれである.今回われわれは,著明な左心機能低下を呈した両側Wilms腫瘍症例を経験した.【症例】生来健康の 5 カ月女児で,意識障害・多呼吸・腹部腫瘤を指摘されて2004年 7 月15日に当院に搬送された.来院時38.5℃の発熱,心拍数200/分のギャロップリズム,70/分の多呼吸・陥没呼吸,全身チアノーゼを認めた.腹部では,左側に巨大で硬く,表面が粗い巨大な腫瘤を触知し,右側にも腫瘤を触知した.心臓超音波では左室拡張末期径が36mmと拡大,駆出率11%と著明な左心機能低下を来しており,心電図では全胸部誘導にてT波は陰転化し,hANP 660pg/ml,BNP 4,430pg/mlと著高していた.腹部CTでは,左側に 8 × 7cm,右側に 5 × 5cmの腎実質との境界が不明瞭な巨大な腫瘤を認め,両側Wilms腫瘍と診断した.また,血漿レニン活性が20ng/ml/hr以上と著高していた.【経過】ドパミン,利尿剤による抗心不全療法に加えて,ACE阻害剤,ATレセプター拮抗剤を開始し,ヴィンクリスチンによる化学療法を施行した.治療への反応は良好で,腫瘍の縮小,心機能の回復がみられ,超音波での心機能の改善と心電図所見の改善を確認してから,アクチノマイシンDを併用した.化学療法にて腫瘍を縮小化させ,2005年 1 月20日に残存腫瘍摘出術を施行した.【考察】Wilms腫瘍にて高レニン血症を呈する機序は,(1)腫瘍により伸展された腎血管に由来する,(2)腫瘍そのものがレニンを産生すると考えられているが,本症例では,治療による腫瘍縮小によりレニン活性は低下傾向を示したが,依然高値が持続し,腫瘍摘出後にようやく4.3ng/ml/hrまで低下した,腫瘍組織内のレニン値が24,000pg/wtと高値であったことより,腫瘍由来のレニンが,腫瘍の増大とともに増加して高血圧を惹起し,その状態を持続させて最終的には心不全に至らしめたと考えられた.

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