P-I-D-4
小児心疾患患者における心室拡張障害の指標としての肺静脈血流パターンについての検討
埼玉医科大学小児心臓科
竹田津未生,先崎秀明,熊倉理恵,岩本洋一,熊谷晋一郎,杉本昌也,増谷 聡,石戸博隆,松永 保,小林俊樹

近年心室拡張能の重要性が注目されているが,小児心疾患患者においても,収縮能は保たれていながら心不全症状を呈し,心室拡張障害が疑われる例を時に経験する.このような例では治療に難渋する場合が多いが,心エコー上の収縮能は保たれ,心室流入波形も正常パターンであることが少なくないため,その診断は侵襲的検査によるところが大きい.成人領域においては肺静脈血流パターン(PVF)が拡張障害診断の一助となることが知られているが,血行動態が根本的に異なることの多い小児心疾患患者においてPVFがどのような役割を果たすか明らかではないため,小児心疾患患者のPVFと心室拡張能の関係につき検討した.【方法】先天性心疾患術前10例,姑息術後 5 例,心内修復術後13例,川崎病冠動脈病変 2 例の30例(0.2~18歳)を対象とし,心カテ時同時に行った経胸壁エコー上のPVFから心房収縮に伴う逆流波(A波)の大きさが報告されている正常範囲のA群(22例),より大きいB群(8 例)に分け,両群における左室EDP,心室圧断面積関係における拡張末期圧断面積関係を検討.【結果】A波の検出は全体の30%にとどまった.B群 8 例中,EDP 10以上のものは 7 例であったがうち拡張末期圧断面積関係より拡張障害が疑われる例は 5 例であり,残る 2 例ではいずれも右室圧が上昇していた.A群中の高EDPのものも10例と多いが拡張障害が疑われた例はうち 2 例のみで,5 例で拡張障害を伴わず右室圧の上昇がみられた.A群中の拡張障害の 2 例はいずれも左右短絡があり,これが異常A波を認めなかった理由と考えられた.【結語】PVFのA波増大は左房圧上昇を反映しうるが,拡張障害によらない場合もある.また,左右短絡,頻脈といった小児心疾患に比較的よくみられるものでA波がみられなくなることが多く,PVFに基づく拡張障害の診断には注意を要する.しかし,これらの特徴を考慮に入れれば,PVFは小児循環器領域においても,拡張障害の診断に有用と考える.

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