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Buprenorphine hydrochlorideの離脱症状からたこつぼ心筋障害を来した 1 幼児例
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児発達機能病態学
丸山慎介,福重寿郎,升永憲治,野中由希子,江口太助,西順一郎,野村裕一,吉永正夫,河野嘉文

たこつぼ心筋障害は精神的・肉体的ストレスが関与して発症する,一過性の心室収縮異常および独特の形態異常を来す症候群で,多くの成人例が報告されている.今回われわれはbuprenorphine hydrochloride(BH)の離脱症状として本症を来した幼児例を経験した.【症例】2 歳女児.large VSD,ASD,PDA,PH,valvular AS,valvular PSの診断で生後 2 カ月時にPAB,PDA divisionを施行.根治手術待機中にインフルエンザ脳症を発症し,その後重度の発達遅滞が残存し,呼吸器感染から呼吸状態が悪化し人工呼吸器管理となるエピソードを繰り返す状態だった.2 歳 8 カ月時,感染を契機に人工呼吸管理となった.鎮静にBH,Midazolamおよび筋弛緩薬を使用した.35日後,抜管に向けて鎮静剤の減量を行ったところ頻脈や大量の発汗がみられ急激な体重減少・血圧低下がみられた.心電図で四肢および左側胸部誘導での著明なST上昇とQT延長があり,VPCが頻発した.心エコーではLVEF 45%と左室壁運動の軽度低下と左室心尖部ballooningの所見を認めた.lidocaine,カテコラミン投与および鎮静剤の再増量により症状は軽快した.左室壁運動低下も 2 日後には回復した.心電図のST上昇は速やかに正常化した後,V4,5,6 の陰性T波がみられた.経過中にCK,CK-MBや心筋トロポニンTの上昇は認めなかった.【考案】BHは中枢のオピオイドγ-受容体に作用し痛覚伝導系を遮断する麻薬拮抗性鎮痛薬であり薬物依存性がある.本児は典型的な心電図所見・心エコー所見と逸脱酵素の上昇がみられなかったことから,BHの離脱症状から本症を来したものと考えられた.幼児のたこつぼ心筋障害は本邦で 1 例の報告しかなく極めてまれではあるが,その低頻度には本症についての認知度が低いことも関係している可能性も考えられる.鎮静剤の離脱症状を来す等の強いストレス状況下では,小児においても本症を引き起こす場合もあり注意を要するものと思われた.

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