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渡航心臓移植に消極的であった家族への対応─分類不能型心筋症で死亡した 1 幼児例─
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科小児発達機能病態学
荒田道子,四元景子,八牧愉仁,福重寿郎,西順一郎,野村裕一,吉永正夫,河野嘉文

【症例】1 歳 1 カ月女児.1歳時健診で腹部膨満を指摘され精査加療目的で当院紹介入院.著明な肝腫大,心拡大(CTR 65%),著明な心嚢液貯留を認めた.両心室は小さく拡張障害があり,著明な三尖弁逆流と両心房・下大静脈の拡大を認めた.僧帽弁閉鎖不全は認めなかった.心嚢穿刺後(80ml排液)も心不全は改善せず,ACEI・利尿剤で経過をみたところ,2 カ月後に心嚢液が再貯留した.心嚢穿刺再施行を行うも翌日には同程度の心嚢液再貯留を来した.カテコラミン,利尿剤等で加療し食欲・機嫌等の全身状態は比較的保たれたが,経過とともに薬剤の増量が必要だった.母は患児に常時付き添っていたが,入院 5 カ月時に外泊の希望があった.利尿剤静注,薬液・シリンジポンプの対応のために主治医が付き添うことで 1 泊外泊を行った.家族や患児の満足を得ることができ,その後も 3 回の外泊を行った.心不全が進行し 2 歳時に死亡.病理解剖では両心室の低形成があり,心外膜はやわらかく心筋層は 3mm程度だった.心筋細胞は,肥大や配列の乱れ,線維化等はみられず,全体的に萎縮しており分類不能型心筋症が考えられた.【考案】家族は本児が渡航心臓移植以外に救命できないことは理解されたが,経済面や 2 歳の姉にも手がかかることもあり積極的にはなれなかった.医療サイドから積極的に繰り返し移植の話をすることは家族の精神的負担にもなりかねず,渡航心臓移植の十分な情報提供・話し合いができたとはいえなかった.大量カテコラミン投与を行いながらの外泊は患児・家族の一時的な満足にはなったが,かえって家族として終末期を実感することともなり,移植についての話し合いを持ちにくくなった点は反省すべきこととも考えられた.幼児の心臓移植に関して,医療サイドからの情報提供だけでなく,家族の経済的支援,こころの支援も含めたさらなる社会的なサポート体制の確立が望まれる.

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