P-I-E-7
拡張型心筋症の家族歴,心電図上心筋障害像およびBNP軽度増加を認めるが,安静時左室収縮・拡張動態正常の小児─経過観察か治療か─
秋田大学医学部小児科
石井治佳,原田健二,豊野学朋,青木三枝子,島田俊亮,田村真通

【目的】拡張型心筋症(DCM)家族歴はDCM発症のリスクファクターであるが,どのような症例がDCMに進展するかのデータは存在しない.今回われわれは,安静時心機能正常,運動負荷心エコーで拡張期障害を認め,DCM前段階と考えられたDCM家族歴のある小児を経験した.【症例】6 歳男児.姉がDCMで15歳時に死亡.小学校入学前の家族内検診で,ECG上II,III,V5,V6 のT波平坦化を認めた.BNPは33pg/mlと軽度高値であった.【安静時心エコー】左室拡張末期径42mm,左室短縮率(LVSF)0.30と当科正常範囲,左室流入血流波形(E)および組織ドプラ(TDI)による収縮期(Sa)・拡張早期(Ea)壁運動速度いずれも正常.【運動負荷心エコー】運動によるLVSF,TDI-Sa増加率は正常範囲であったが,左室filling pressureの指標であるE/Eaの増加率は20%と正常に比し高値(当科正常値は 4%),肺動脈圧も運動時に17mmHg増加(当科正常値11mmHg)と高値であった.これらの所見から,安静時正常心臓performanceであるが,運動時の拡張障害異常があると診断した.【経過】両親の薬物治療への強い希望があり,少量ジギタリス(0.1mg/day),利尿剤(5mg/day)で治療開始(ACE阻害剤は副作用のため了解は得られなかった).治療開始 2 月を経過し,BNPに変化はみられていないが,ECG上V5,V6 のT波増高,Tei index(0.47~0.42)およびLVSF(0.30~0.32)の改善が得られた.【結語】本症例は安静時に検出されない拡張充満動態の異常が存在し,薬物治療で改善傾向を認め,DCMの前段階と推測した.本症例に似た小児例も少なからず存在する可能性があると思われるため,DCM家族歴を有す小児の長期的なフォローアップデータ・ガイドラインの確立が望まれる.

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