P-I-E-9
ブドウ膜炎の治療に難渋した川崎病ガンマグロブリン不応例の 1 例
愛媛大学医学部小児科
村上至孝,檜垣高史,高田秀実,山本英一,松田 修,中野威史,太田雅明,長谷幸治,村尾紀久子,高橋由博

【緒言】川崎病の60~80%の症例にブドウ膜炎を合併する.ブドウ膜炎の大部分は自覚症状もなく軽症であり,川崎病の改善とともに自然に治癒し,特別な治療を要さないことが多い.今回われわれは,視力低下を来し,ブドウ膜炎の治療に難渋した川崎病γ-グロブリン不応例を経験したので報告する.【症例】5 歳,男児.発熱,結膜充血を認め,第 4 病日に川崎病を疑われ入院した.入院時の血液検査では,白血球17,700/γl,CRP 11.8mg/dl,肝機能異常はなく,心エコー検査では冠動脈の輝度亢進,心嚢液貯留を認め,アスピリンとγ-グロブリン 2g/kg/日の投与を開始した.解熱がみられず,炎症所見の増悪(CRP 17.4mg/dl)を認めたため,γ-グロブリンの追加投与とウリナスタチンの併用を行った.第10病日より羞明,眼痛,視力低下が出現し,ブドウ膜炎(虹彩毛様体炎,網脈絡膜炎)と診断された.眼科的にはステロイドの全身投与の適応であったが,右冠動脈Seg 3 に 6mmの冠動脈瘤と左冠動脈Seg 5 の水かき様拡大を認めたため,ステロイド薬を点眼し経過観察した.γ-グロブリン総投与量14g/kgとウリナスタチンの併用により,第18病日に解熱し,炎症反応は第40病日に陰性化した.ブドウ膜炎に対しては,1~2 時間ごとにステロイド薬を点眼したが改善を認めず,眼圧の上昇を認めた.現在,抗凝固療法を併用した少量のステロイド薬の内服を検討中である.【考察】川崎病急性期のステロイド投与に関しては,冠動脈内の血栓形成,冠動脈瘤破裂の危険性がありコンセンサスは得られていない.本症例はすでに冠動脈瘤を合併しており,可能ならステロイドの全身投与は避けたいが,ブドウ膜炎による視力障害が危惧されている.重症のブドウ膜炎を合併した川崎病の報告は文献的にもまれであり,ステロイドの投与方法,治療開始時期について検討を要する.

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