P-I-F-2
大動脈基部置換術を施行された20歳未満のマルファン症候群 6 例の検討
東京大学医学部小児科1),東京大学医学部心臓外科2)
犬塚 亮1),賀藤 均1),小野 博1),戸田雅久1),杉村洋子1),渋谷和彦1),師田哲郎2),村上 新2),高本眞一2)

【はじめに】マルファン症候群(MS)において大動脈弁輪拡張(AAE)・大動脈弁閉鎖不全(AR)は予後にかかわる重要な合併症である.しかし,AAE,ARのため小児期を含め20歳未満に大動脈基部置換術を要した例はまれであるため,まとまった数での報告は本邦ではほとんどない.【方法および対象】2000年 9 月~2004年12月に当院で大動脈基部置換術を施行された20歳未満のMS患者のカルテを抽出し後方視的に検討した.【結果】調査期間に大動脈基部置換術を施行された20歳以下のMS患者は 6 例(男性 3 例,女性 3 例)だった.家族歴を有するのは 1 人,孤発例は 5 人だった.このうち,初回手術前に定期的経過観察をされていたのは 3 例であった.これら 3 例は,平均3.1歳でMSと診断され,1 例は経過観察のみ,2 例は降圧薬の投与を受けており,平均12歳時に,AAE(55mm以上または 1 年で 5mm以上の拡張)のため手術適応となった.術前のNYHAは 1 度が 2 例,2 度が 1 例であった.定期的観察を受けていなかった残り 3 例のうち,2 例は初回手術時にMSと初めて診断され,1 例はMSと診断されていたが定期診察を受けていなかった.これら 3 例は平均17歳時に,大動脈解離(2 例),重症ARによる重症心不全(1 例)のため手術適応となった.術前のNYHAは 2 度が 1 例,4 度が 2 例であった.初回手術式は,David手術が 5 例,Bentall手術が 1 例であった.David手術を行った 5 例のうち 2 例で再手術を要した.手術死亡はなく,退院し,経過観察中である.【考察】MSでは小児期に大動脈解離,重症の大動脈弁輪拡張 + 大動脈弁閉鎖不全を発症する例がある.定期的観察を受けていない例が半数あり,当然,β遮断薬を投与されていた患者は 1/3 のみであった.また,MSとして正確な診断がなされていなかった例が 1/3 あった.本邦では,若年層でのMSの定期的観察の重要性はいまだ認識不足であり,また,本症候群の正確な診断が現在でも不十分と考えられた.

閉じる