P-I-F-8
右室流出路発症の有茎性疣贅の初期治療は抗生物質のみで十分か?
京都大学医学部小児科1),三菱京都病院小児科2)
鷄内伸二1),岩朝 徹1),馬場志郎1),平海良美1),土井 拓1),野崎浩二2),中畑龍俊1)

症例は16歳男児.乳児期より心室中隔欠損を指摘され経過観察されていた.2004年10月より発熱,全身倦怠感,体重減少を認め,改善しないため同年12月精査加療目的で当院紹介.炎症反応の上昇(CRP 4.0mg/dl),心臓エコー検査で心室中隔小欠損と,短絡血流が吹き込む右室流出路壁に直径 5mm大の有茎性疣贅を認めた.直ちに抗生剤ABPCを開始した.血液培養でα-streptococcusを検出し,ABPCに感受性が確認された.発熱前に齲歯,歯科治療歴,明らかな外傷既往はなかった.治療開始後,速やかに臨床所見の改善を認めたが,治療開始10日目に突然の胸痛と再発熱を来した.心臓エコー検査で右室流出路の疣贅の消失と胸部CTで右肺動脈分岐部に小指頭大の疣贅を認めた.抗凝固療法を開始し,その 2 日後胸痛の増強,臥位困難となる呼吸障害等の臨床所見の悪化を来した.胸部CT上塞栓物の末梢への分散移動から,両側末梢肺野の多発性小梗塞と,右側肺野S8 の出血性梗塞,胸水を認め,炎症反応の再上昇(CRP 20mg/dl)とDIC兆候を来した.対症療法により胸痛,炎症所見,DICも改善は得られたが,右側肺野S8 の梗塞性瘢痕と軽度の拘束性呼吸障害を残した.【考察】本症例は診断時より肺塞栓を来す可能性が推察されたが,その予防策として有効な治療戦略を施行できなかった.抗生剤開始後に有茎性疣贅は茎が切断され,右室流出路から肺動脈へ,さらに細分化し末梢肺野に多発性梗塞を生じ,結果として梗塞性瘢痕と拘束性障害を残した.肺梗塞の予防策として外科的治療等のcollaborationを考慮する方法があったか,その他内科的予防策があったかどうか検討を要す症例であった.

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