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肺動脈左房交通症の 1 例
太田西ノ内病院小児科1),東京大学医学部小児科2),東京大学医学部心臓外科3)
梶保祐子1),賀藤 均2),杉村洋子2),戸田雅久2),小野 博2),犬塚 亮2),渋谷和彦2),近田正英3),村上 新3)

【はじめに】肺動脈左房交通症はまれな疾患である.今回われわれはチアノーゼを主訴に 6 歳にて発見された例を経験したので報告する.【症例】6 歳男児.在胎40週 5 日3,080gにて出生し,出生時より母親は四肢のチアノーゼを認めていたが放置していた.6 歳時に,近医受診の際,軽度チアノーゼ,太鼓バチ指を認め,胸部X線上右肺門部に異常陰影あり,精査目的で紹介された.心エコー検査,CT検査にて,右肺動脈と左房の間に径 3cmの瘤状の交通が確認され,右肺動脈から左房への血液短絡を認めた.心臓カテーテル検査で,動脈血酸素飽和度:85.9%(room air),右-左シャント率:39.2%で,4 本の肺静脈はすべて左房に還流していた.他の心・血管合併症はなかった.以上より右肺動脈左房交通症(type 1)と診断した.手術は,体外循環下で肺静脈の還流部位を確認後,瘤と肺動脈間の交通部を結紮した.切断片は病理組織学的には右肺動脈の一部と考えられた.その後の経過は順調で,動脈血酸素飽和度も正常範囲である.【考察】肺動脈左房交通症は,われわれが調べた限りでは,文献上,これまで53例の報告がある.性差は 3:1 で男児に多く,発見年齢はさまざまである.多くは,右肺動脈の後側から左房の右側に直接の交通があり,右-左シャント率は30~70%存在するとされる.新生児期から幼児期には,チアノーゼ,酸素飽和度の低下,多呼吸,太鼓バチ指,多血症が出現し,成長につれ各臓器の虚血性変化,感染性心内膜炎,交通部の破裂を引き起こす可能性がある.診断は心電図・X線のみでは困難であり,超音波検査,CT,MRI,心臓カテーテル検査が有用である.チアノーゼの出現,動脈血酸素飽和度の低下がある場合は,喀血,脳膿瘍,脳梗塞を合併することがあるため,早期の手術が適応となる.まれな疾患であるが,チアノーゼの原因疾患として,肺動静脈瘻,体静脈左房還流との鑑別も含め,留意すべき疾患と考えた.

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