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肝移植待機患者における先天性心疾患の治療時期,治療優先順序について─1 死亡例の検討─
金沢医科大学小児科1),金沢医科大学小児外科2),富山医科薬科大学第一外科3),富山医科薬科大学小児科4)
中村常之1),高 永煥1),増山宏明2),伊川廣道2),大嶋義博3),市田蕗子4)

【背景】肝移植が必要な疾患と先天性心疾患の合併例は,肝移植時期を考慮した,心疾患の治療時期等の方針決定が重要である.今回胆道閉鎖症を合併した先天性心疾患例を経験した.移植前に死亡したが,今後同様な症例の治療のうえで重要な意味があると考え報告する.【症例】在胎37週,体重1.9kgで出生した男児.両大血管右室起始,肺動脈狭窄,両上大静脈,奇静脈結合と診断.生後 2 週白色便を認め,当院小児外科が生後60日の時点で胆道閉塞症と診断し,肝門部空腸吻合,Roux-en-Y再建術を施行.生後103日将来的に肝移植を見据えての方針を決定するため心カテーテルを施行.心疾患根治は可能と考え,両親に肝移植を前提に行うことを説明したが,手術は拒否された.その後黄疸軽減のため外来にて経過観察を行った.生後 9 カ月肺動脈弁下狭窄の進行により,低酸素発作が頻回に出現し,両親は根治術を希望した.生後10カ月の時点で根治術を施行.術後は凝固因子の補充にもかかわらず,凝固異常を呈し,術後 6 日からは突然T-bil値の上昇を来した.術後 8 日突然の心肺停止状態となり,蘇生を行ったが術後 9 日死亡した.【剖検肉眼】右心系の血栓,疣贅形成は認めず.両肺に出血あるいは出血梗塞と考えられる所見を認めた.肝臓は高度の線維化と左葉で偽小葉形成も認めた.【病理組織】両肺にはびまん性肺胞出血を認めた.肺動静脈閉塞は認めず,肺胞毛細血管炎,感染,びまん性肺胞障害を示唆する所見も認めない.肝障害に伴う血液の凝固異常を基礎に,肺動脈狭窄解除による肺血流増加が引き金になり,びまん性肺出血を来した可能性が推測された.肝臓は前肝硬変状態で,門脈域の線維性拡大と細胆管増生が目立った.【結語】肝生着のため移植前にチアノーゼ性心疾患に対する根治術をすべきと考える.しかしその手術侵襲は予期せぬ状態(凝固異常による肺出血等)に至る可能性があり,厳重な凝固管理や緊急肝移植の準備体制が必要となる.

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