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成人先天性疾患患者の妊娠・出産─外科医の役割?妊娠時の手術介入が必要になったら─
岡山大学大学院医歯学総合研究科心臓血管外科1),現 自治医科大学とちぎ子ども医療センター小児心臓血管外科2),岡山大学医学部・歯学部附属病院循環器疾患治療部3),岡山大学大学院医歯学総合研究科麻酔・蘇生科4)
河田政明1, 2),佐野俊二1),石野幸三1),神吉和重1),赤木禎治3),小泉淳一1),那須恵美1),末澤孝徳1),大崎 悟1),竹内 護4)

成人先天性心疾患患者の妊娠・出産において心臓外科医が関与するのはまれであるが,(1)基礎心疾患(未治療,姑息術後,修復術後の遺残症/続発症/合併症,人工弁や導管に関連など)の進行,悪化(妊娠による心負荷増大による場合を含む),(2)全身性疾患に新たに心大血管病変が合併,(3)感染性心内膜炎などで妊娠中に心大血管手術が必要とされる場合である.対象も弁膜症主体から,右室体心室例やFontan/Glenn手術後などの特有の循環動態を有する例の増加も予想される.加えて“妊娠母体(+胎児)に対する心大血管手術(特に人工心肺使用の影響)”が問題となる.すなわち体外循環の影響や至適な条件についても妊娠母体に対する影響だけでなく,妊娠子宮,胎盤,臍帯を経由する胎児への影響は未知の領域で,母体のmortality,morbidityは非妊娠例と同等とされるのに対し,胎児では20~30%以上と問題がある.各施設個々の経験は少なく,報告もまれで,こうした例での体外循環技術に対する知識,理解も一般には普及していない.妊娠母体および胎児では(1)autoregulationが欠如した子宮動脈血流(圧依存性),(2)妊娠時期による内分泌学的変動と子宮収縮,希釈体外循環や低体温の影響,(3)低体温や母体灌流血流量による胎児胎盤機能への影響,(4)カニューレ挿入や体外循環導入時の血圧の変動,(5)術中投与薬剤や心筋保護液の影響などが複雑に関与しており,meta-analysisでは妊娠前の手術介入,catheter interventionや人工心肺非使用手術の選択,体外循環使用例では妊娠中期の手術介入や血液充填,短時間,高流量,高灌流圧,常温(あるいは軽度低体温)体外循環の使用,prostaglandin産生抑制やprogesterone希釈の防止などが胎児に対する安全性向上に有用とされ,時期によっては緊急帝王切開に引き続く開心術も母児の安全面に有用とされている.

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