P-II-D-6
重度胎盤機能不全時における血行動態の変化を観察し得た心室中隔欠損の 1 胎児例
埼玉医科大学小児心臓科1),埼玉医科大学産婦人科2)
竹田津未生1),先崎秀明1),熊倉理恵1),岩本洋一1),熊谷晋一郎1),杉本昌也1),石戸博隆1),松永 保1),小林俊樹1),小林浩一2)

重度胎盤機能不全による胎児仮死がみられたが,早期産,極端な子宮内発育不良と合併疾患のため妊娠継続が選択され,先天性心疾患を併せ持った胎盤機能不全における血行動態を追跡できた症例を経験した.【症例】在胎29週,500g.子宮内発育不良として経過中,胎児仮死がみられ,食道閉鎖,心疾患の合併も疑われるため,母体搬送となった.胎児エコーでは胃胞は観察されず,CTAR 0.26,大きなVSDを認めた.IVCが著明に拡大し,心房収縮に伴うa波が増大,右室流出路,左右肺動脈の血流が低下し,VSD血流は右左であった.大動脈血流はpeak velocity 0.59m/sと左室からの心拍出は保たれていた.肺静脈血流パターンは正常範囲,三尖弁逆流が軽度みられるも両心室とも収縮低下はみられなかった.臍帯動脈血流(UA)は拡張期に逆流し,臍帯静脈血流(UV)は拍動性であった.重度胎盤機能不全と診断,妊娠中断,出産が考慮されたが,児の未熟性と合併疾患よりこの時点での救命が困難である可能性があり,本人の希望により入院絶対安静にて妊娠継続の方針となった.入院翌日の胎児心エコーではIVC拡大が軽減,肺動脈血流の描出が容易となり,VSD血流は両方向性に転じた.三尖弁逆流は消失し,UA,UVパターンは不変ながら胎盤血管抵抗の低下が示唆されたが,翌日には入院当日の状態に戻り,その後,浮腫の出現,心拡大,心収縮低下を経て,入院 6 日目に子宮内胎児死亡した.【考察】胎盤機能不全時には,胎盤血管抵抗の上昇に加え,脳血管が拡張すると同時に体肺血管を収縮して脳血流を維持する,いわゆる‘brain-sparing-effect’を生じ,特徴的な血行動態を示すことが知られる.この現象は相対的な左室の後負荷軽減を引き起こすことが推定される.本症例ではVSDを介し比較的負荷の少ない左室へ血流を流しうることが右室の後負荷軽減にもつながり,拍動性UVがみられていたにもかかわらず両心室の収縮力が保たれていた可能性がある.

閉じる