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人工心臓医療─近年の加速的進歩と小児人工心臓の動向─
東京医科歯科大学生体材料工学研究所
中村真人

人工心臓医療の近年の進歩は著しい.欧米では,確立された心不全治療法として臨床で活躍している.米国では保険診療も認められるようになった.近年は,これまでの大型の拍動型人工心臓に代わり,ロータリー式の新しい小型人工心臓がどんどん臨床応用されている.デバイスサイズの縮小により,これまで人工心臓を埋め込むことなど考えられなかった小柄な患者にも用いられるようになった.また,空気駆動型人工心臓でも,体外駆動装置のモバイル化が進み,患者QOLは著しく改善し,在宅医療さえ可能になっている.長期耐久性に優れた新しいデバイスの臨床応用が開始され,移植や自己心回復へのブリッジはもとより,人工心臓で最期まで循環補助を行うdestination therapyとしての臨床使用も積極的に進められている.小児の人工心臓は,欧州では,小児用空気駆動型ポンプがあり,臨床で活躍しているが,一方,米国には小児に使えるポンプがない.これまでECMOで乗り切るしかなかったが,ECMOは長期補助には向かない.近年,MicroMed 社の軸流ポンプDe Bakey LVADで,小児患者への応用が進められつつあるものの,5l/minの拍出量を考えて開発された大人用デバイスの流用が,果たして小児に適したデバイスかどうかは分からない.この現状を受けて,2004年 4 月,米国では,「小児用人工心臓の研究開発」が 5 年のNIH国家プロジェクトとして立ち上がった.5 カ所の施設でそれぞれ別々のタイプのデバイスが研究開発されている.小児循環器領域での人工心臓医療は目前にきている.本研究では,人工心臓医療の近年の加速的進歩,小児人工心臓開発の米国の取り組みを調査し,わが国ではどうあるべきかを考察し,報告したい.

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