P-II-F-18
フォンタン手術後患者における血中エンドセリン-1 濃度の検討
北海道大学医学部小児科
上野倫彦,盛一享徳,八鍬 聡,武田充人,村上智明

【背景】エンドセリン-1(ET-1)はおもに血管内皮において産生され,血管収縮作用のみならず心筋や血管平滑筋のリモデリングを引き起こすことが知られている.その血中濃度は心不全のマーカーとして有用であることが報告されているが,フォンタン手術後の患者における検討は少ない.【目的】フォンタン循環における血中ET-1 濃度を測定し,血行動態との関連を検討すること.【方法】当科で心臓カテーテル検査を行ったフォンタン型手術後の18症例(22回)において,検査時に下大静脈で採血し血中ET-1 濃度を測定した.フォンタン手術施行年齢は4.8 ± 1.3歳(平均 ± 標準誤差),カテーテル検査施行年齢は7.2 ± 1.6歳,手術からカテーテル検査までの期間は2.4 ± 0.4年であった.各症例において年齢,手術前後の肺動脈圧,中心静脈圧,肺血管抵抗,心係数,動脈血酸素飽和度などの血行動態パラメータやHANP・BNP血中濃度と比較検討した.【結果】術後中心静脈圧は13.2 ± 0.4mmHg,動脈血酸素飽和度は93.0 ± 0.8%,心係数は3.0 ± 0.1l/min/m2,血中HANP77.6 ± 19.0pg/ml,BNP49.5 ± 9.9pg/ml,ET-1は2.51 ± 0.2pg/mlであった.血中ET-1 はHANPやBNPと有意な関係はなかった.血中ET-1 は,術後の動脈血酸素飽和度と有意な逆相関を認めた(p < 0.01,r = 0.51).しかし中心静脈圧はじめ他のパラメータとは有意な関係はみられなかった.明らかな右左短絡が残存する症例を除外した検討では,術前の肺血管抵抗と有意な相関を認めた(p < 0.01,r = 0.56).術後 2 回評価している症例では,おおむね遠隔期の方が血中ET-1 値は低値であった.【結論】フォンタン術後患者における血中ET-1 濃度は低酸素血症が残存した症例ほど高値であった.それ以外の血行動態指標とは明らかな相関はみられなかった.血中HANP・BNP値とは異なった傾向を示すため,循環動態を示すマーカーとしては,ナトリウム利尿ペプチドと違ったものを反映している可能性が示唆された.

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