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肺炎球菌ワクチン接種後に肺炎球菌による重症敗血症を起こした無脾症候群の 1 男児例
順天堂大学医学部小児科
織田久之,稀代雅彦,佐藤圭子,大槻将弘,田原加奈子,大高正雄,宮崎菜穂,秋元かつみ,大久保又一,山城雄一郎

【背景】無脾症候群はその重症複合心奇形と易感染性のため予後不良の疾患である.小児循環器学の発展により長期生存例が増加した一方,外科的侵襲が新生児期から加えられるため,予後の改善には感染防御が重要な課題である.最大の問題点である肺炎球菌感染に対し,わが国では莢膜多糖体23価ワクチン(ニューモバックス®)が 2 歳以上の患児に接種されている.今回ニューモバックス接種後に肺炎球菌による重症敗血症を起こした無脾症候群の 1 例を経験したので,肺炎球菌ワクチンの効果と問題点について文献的考察を加え報告する.【症例】4 歳男児.出生時にPA,SA,SV,CAVV,口唇口蓋裂,無脾症候群と診断.フォンタン手術を 2 歳 8 カ月時に終了.2 歳 3 カ月時にニューモバックス接種.4 歳 2 カ月時,発熱に続く意識障害,痙攣が出現したため当院入院.入院時軽微であった炎症データは急速に悪化し,DIC,MOFを発症.入院時の血液培養から肺炎球菌を検出.全身に紫斑が出現するなど一連の経過より,Waterhouse-Friderichsen症候群が疑われた.カルバペネムを中心とした抗菌薬およびデキサメサゾン投与,ガンマグロブリン投与により軽快退院した.【考察】肺炎球菌は莢膜多糖の抗原性から約90種の血清型に分類される.23価ワクチンで流行株の79%,耐性株の95%をカバーする.他方,莢膜多糖体はT細胞非依存性抗原であり,記憶細胞が残らず,無脾症候群患児における抗体獲得は半数程度ともいわれている.本症例でも十分な抗体獲得が得られなかったか,ワクチン株以外の血清型の感染が考えられた.現在米国で臨床応用されている 7 価conjugateワクチンは 2 歳以下の乳幼児を対象とし,複数回接種によるブースター効果で成果を上げており,本邦でもその適応が待たれる.無脾症候群の長期管理における感染防御について示唆に富む症例と考えられた.

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