P-II-G-15
単冠状動脈を伴う完全大血管転位症に対する,冠状動脈口の移植を伴わない動脈スイッチ手術(Murthy法)の 1 例
日赤医療センター心臓血管外科1),日赤医療センター小児科2),日赤医療センター新生児科3)
金子幸裕1),小林城太郎1),益澤明広1),土屋恵司2),与田仁志3)

Coronary sinus 2 から起始し左冠状動脈が肺動脈の背側を回る単冠状動脈(Shaher分類 3B)は,coronary button reimplantationが難しいため,動脈スイッチ手術の危険因子とされている.Pasqualiらはmeta-analysis(Circulation 2002; 106: 2575-2580)から,冠状動脈が大血管周囲を回って走行する単冠状動脈の手術死亡率は通常の 3 倍と報告した.Scheuleらは(J Thorac Cardiovasc Surg 2002; 123: 1164-1172),Shaher 3Bは手術死亡の危険因子(odd ratio 8.5)と報告した.生後10日,体重2.5kgのShaher 3Bの単冠状動脈を伴う完全大血管転位症(I)の男児に,動脈スイッチ手術を行った.common coronary trunkが短く,sinus node arteryとconus branchが左右冠状動脈分岐部から分枝しており,coronary button reimplantationを行うと冠状動脈が屈曲する危険性が高いと判断し,Murthyらの方法でin situ coronary artery reallocationによる動脈スイッチ手術を行った(Murthy et al, Eur J Cardiothorac Surg 2004; 25: 246-249).肺動脈と大動脈をJatene手術と同様に切離し,Le Compte操作の後,肺動脈に面した近位大動脈壁から冠状動脈開口部の下までJ字型に切開した(U字型coronary buttonの半周分と同じ).同じ形の切開を上からみて反時計回りに120度ずらして肺動脈にも行い,肺動脈切開の凹部分に大動脈切開の凸部を縫合し,肺動脈切開の凸部は冠状動脈開口部を越えた大動脈内腔に縫合し,大動脈切開の凹部は肺動脈の外壁に縫合固定しin situ coronary artery reallocationを行った.遠位側大動脈を肺動脈基部に,遠位側肺動脈を大動脈基部に直接吻合した.元々肺動脈弁逆流があったため新大動脈弁逆流が残存したが,術後経過には特に悪影響は及ぼさなかった.この術式は,冠状動脈開口部の位置が適当であれば,coronary button reimplantationを回避したい場合には有用な方法と思われる.

閉じる