I-PD-4
高次脳機能に対する血液希釈人工心肺の影響
国立循環器病センター心臓血管外科1),国立循環器病センター小児科2)
萩野生男1),鍵崎康治1),石坂 透1),松崎多千代1),越後茂之2),八木原俊克1)

【目的】血液希釈人工心肺は酸素運搬能の低下をもたらし術後脳機能障害と関連するという報告がみられるが,希釈の至適範囲はいまだ不明である.当院における血液希釈と高次脳機能との関連を検討した.【対象と方法】(1)1 歳時(月齢11~12カ月)に発達評価としてBayley検査と津守式乳幼児精神発達質問紙を施行した手術時年齢が 3 カ月以下の15例.疾患はVSD 10,TGA 2,IAA・CoA複合 3(1 期的)であり,Bayley検査ではpsychomotor development index(PDI),mental development index(MDI)の 2 尺度を用い,津守式では発達指数と運動・探索操作・社会・生活習慣・言語の 5 領域を用いて評価した.高次脳機能に影響を及ぼす 4 因子として,最低Hb(Hb:mg/dl),その期間(大動脈遮断時間,CCT:min),温度(T:℃),流量(F:ml/min)を考慮し,温度はQ10 = 2.3(脳代謝変化率/10℃)を用いて補正した.酸素運搬指数 = (Hb × F)/(CCT × T)と定義した.無輸血体外循環症例なし.(2)5 カ月~2 歳時に発達評価として津守式を施行した手術時年齢が 1 歳未満のVSD24例.輸血人工心肺15,無輸血人工心肺・術後輸血 4,無輸血 5.【結果】(1)酸素運搬指数とPDI,MDI,発達指数と 5 領域の項目の間に相関を認めなかった.PDIが低値を示す症例(80以下 3 例)は酸素運搬指数が平均以下であったが,MDIも低値を示し血液希釈による高次障害とは異なる所見であった.(2)発達指数は輸血人工心肺群99.8 ± 17.5,無輸血人工心肺・術後輸血群110 ± 29.7,無輸血群87.8 ± 12.8と無輸血群に低値の傾向を認めたものの,3 群間で有意差はなかった(p = .253).酸素運搬指数と発達指数の間に相関は認めなかった.【結語】現在当院で施行している血液希釈人工心肺と高次脳機能障害との間に有意な相関は示唆されなかった.至適な血液希釈の同定のためには多施設試験などによるデータ集積による対象数の増加や,今後長期にわたる経年的な追跡調査が必要と思われた.

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