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I-PD-5 |
小児開心術における輸血トリガー値の予後に与える影響についての考察 |
国立循環器病センター輸血管理室
宮田茂樹 |
近年,同種血液製剤の感染症スクリーニングにNAT(核酸増幅法)が導入され,安全性が飛躍的に向上した.B型肝炎伝播は30~40万本に 1 回起こるリスクとなり,C型肝炎,HIV感染症については無視できるレベルまで低下している.また,保存前白血球除去の導入によりさらに安全性の向上が見込まれる.よって,輸血による感染症伝播が問題視され,無輸血手術が最重要課題であった時代から,安全性が高い確率で担保できる血液製剤をいかに効果的に利用するかが重要となる時代にシフトしつつある.この流れのなかで,輸血トリガー値を模索する臨床試験,特にランダム化比較試験が倫理上許されることとなり,近年多くの報告がなされるようになった.小児領域では,症例ごとのバリエーションが大きい,施設間の比較が行いにくい,採血による貧血,同意が得られにくい等の問題があり,臨床研究実施に困難を伴う.しかしながら,小児や新生児を対象とした輸血トリガー値を模索する臨床試験の報告も増加しつつある.小児では余命が長いため,特に長期予後をアウトカムとした検討が重要となる.神経学的発達をエンドポイントとした臨床試験の報告がなされ,無輸血にこだわり患児のヘモグロビン(Hb)レベルを下げすぎると神経学的発達を障害する可能性があることが示唆されている.ファロー四徴症根治術における人工心肺中最低Hb値の術後30日間死亡率および合併症発症率に与える影響をレトロスペクティブに検討したわれわれの結果でも,人工心肺中Hb値を 6g/dl以上に維持する必要があること,10g/dlを超えないように考慮すべきであることが示唆された.したがって,人工心肺中に無輸血にこだわり,Hb値を下げすぎると予後が悪化する可能性があると思われる.今後,小児の場合に特に重要となる長期予後を考慮に入れた臨床試験を積み重ね,適正な輸血トリガー値を設定する試みが重要となる. |
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