I-S-6
成人先天性心疾患患者の社会的自立の困難さ
千葉県循環器病センター小児科
丹羽公一郎,立野 滋

【背景および目的】成人先天性心疾患患者にとって,教育,就職,結婚,妊娠,出産など社会的自立の問題は重要だが,一般と比べ,その程度は劣るとされる.この疾患群に関する社会的自立の実態,自立規定因子について解析した.【方法】成人先天性心疾患患者に社会的自立に関する対面アンケート調査を行った.対象は115名,未修復チアノーゼ型先天性心疾患13人(18~56歳,平均年齢29.8 ± 10,男 4 人,女 9 人),これ以外の先天性心疾患102人(18~74歳,平均年齢29.5 ± 10,男48人,女54人)に分け比較した.アンケートは,患者属性,教育歴,就業状況,保険,婚姻状況である.この結果を総務省日本統計年鑑と比較した.【結果】対象全体ではNYHA I~II:108/115(94%),投薬継続中:53/115(46%),心臓病による入院歴:59/115(51%)であった.また,同年齢の日本人一般と比べ既婚率;31% vs 32%,就業率;82% vs 80%は同等だが,就学率(高卒以上);86% vs 94%,生命保険加入率;51% vs 71%は低かった.女性の既婚率は,一般より高かった.未修復チアノーゼ先天性心疾患群の既婚率,就業率,就学率,生命保険加入率はそれぞれ15%(p = .19),40%(p = .0003),69%(p = .006),18%(p = .02)で,これ以外と比べ低率であった.結論:成人先天性心疾患患者の社会的自立を妨げる因子は疾患重症度,継続的加療,低就学率,消極的思考傾向,患者の生涯歴調査の不十分さである.診療側,患者側,社会側の要素が,先天性心疾患術後の社会的自立を妨げる要因になりうる.今後,先天性心疾患術後患者の管理治療法の向上,診療施設の充実,長期予後の解明,患者側の自分の病気に対する的確な理解,精神心理的な問題点へのサポート,社会保障体制の充実が社会的自立の促進にとって不可欠である.

閉じる