I-D-51
脳炎・脳症に合併した神経原性心筋障害・肺水腫と考えられた10例
大阪市立総合医療センター小児循環器内科1),大阪市立総合医療センター小児救急科2)
江原英治1),村上洋介1),川崎有希1),杉本久和1),塩見正司2)

【背景】くも膜下出血の急性期に一過性の心筋障害・肺水腫や心電図異常が認められることがよく知られており,神経原性心筋障害・肺水腫として報告されている.原因として一部にカテコラミンの過剰分泌の関与が指摘されている.また,手足口病・エンテロウイルス71(EV71)による脳幹脳炎において,手足口病発病後 2~3 日で急変,心筋障害・肺水腫を呈し死亡する例が報告されている.剖検所見では脳幹脳炎を認めるが,複数の報告で有意な心筋炎の所見はなかったとされている.今回われわれは脳炎・脳症に合併した神経原性心筋障害・肺水腫と考えられた10例を経験したので報告する.【対象】1997年 7 月~2004年12月に,熱性疾患から急変し脳炎・脳症と診断され,その際心筋障害,肺水腫,不整脈など心症状を呈した10例(男 6 例,女 4 例).年齢は 1 カ月~5 歳 8 カ月(2.7 ± 2.2歳).脳炎・脳症の内訳は手足口病・エンテロウイルス71(EV71)脳幹脳炎 4 例,インフルエンザ脳症 3 例,その他の脳炎・脳症 3 例である.【結果】発熱など熱性疾患の症状から,第 1~5 病日(2.9 ± 1.3日)に急変,痙攣・意識障害などの中枢神経症状に加え,呼吸困難,ショックを呈した.胸部X線で全例肺水腫を示し,心エコーを実施した 7 例ではLVEFが0.22~0.39(0.31 ± 0.07)と著明な左室収縮機能不全を示した.予後は死亡 5 例,生存 5 例.生存した 5 例では肺水腫,左室収縮機能不全は 2 週間程度でほぼ正常化した.ショック状態またはCPAで入院した 6 例中,保存的療法を行った 5 例は入院後 3~11時間(8.0 ± 3.7時間)と急激な経過で死亡し,ECMOを導入した 1 例のみ生存した.【まとめ】脳炎・脳症のなかに,経過中に急変し心筋障害・肺水腫など重篤な心症状を呈する 1 群が存在する.心症状は一過性で可逆性であるが,重症例では急激な経過をたどり予後不良である.迅速なECMOの導入が救命法となり得る.

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