I-P-14
完全右脚ブロックを呈しても12誘導心電図から右室圧負荷は判定できる
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科発達病態小児科学1),曙町クリニック2)
大西優子1),細川 奨1),今村公俊1),佐々木章人1),脇本博子1),土井庄三郎1),泉田直己2)

脚ブロック存在下では右室負荷の脱分極,再分極異常の判定は不可能とされている.一方われわれは脚ブロック時のQRST積分値図による右室圧負荷判定の可能性を報告してきた.今回,心電図QRST積分値が診断に有用であった症例を経験したので報告する.症例は 9 歳女児.3 カ月時に心臓超音波検査にて心室中隔欠損症(傍膜様部欠損),肺動脈狭窄と診断された.11カ月時に心臓カテーテル検査を施行し,心室中隔欠損症(傍膜様部欠損),右室流出路狭窄(軽度),肺高血圧症〔80/40(55)mmHg〕と診断され,1 歳時に根治手術を施行した.手術後 1 年の心臓カテーテル検査で残存短絡はなく,肺動脈圧は33/10(20)mmHgと術前の肺高血圧は改善していた.その後順調に経過したが,8 歳の春より労作時の息切れを訴えるようになり,聴診所見で二音の亢進が疑われた.心電図所見は術後完全右脚ブロックを呈しており,一般的には右室肥大所見を判定できないが,V1 誘導で完全右脚ブロックと陽性T波を認め,QRST積分値が高正値を示すことが推察された.心エコー所見においても三尖弁逆流血流速度の上昇を認め,肺高血圧の存在が疑われた.9 歳時の心臓カテーテル検査結果では,肺動脈圧は70/43(52)mmHgと高く,基礎疾患を除外し,高肺血管抵抗(14単位)による特発性肺動脈性高血圧と診断した.本症例のQRST積分値図は正常例に比し単一の極大が右方に変位した所見であり,中等度以下の右室圧負荷でみられる 2 峰性極大所見とは異なり,本例の負荷の程度とよく合致した.この所見を反映して,右胸部誘導V1,V2 のQRST積分値は高値を示した.完全右脚ブロックにV1,V2 誘導で明らかな陽性T波を示す場合には,右室圧負荷の存在を示唆すると考えられた.本症例は現在NYHA 2 度であり,PGI2による肺血管抵抗低下の反応性が良好であったため,内服治療にて経過観察中である.

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