I-P-28
大動脈炎症候群の多発性血管狭窄に対するステロイド治療と経皮的血管形成術を行った 1 例
国立病院機構香川小児病院小児科1),国立病院機構香川小児病院心臓外科2)
太田 明1),寺田一也1),江川善康2),川人智久2)

大動脈炎症候群は,大動脈およびその分枝および肺動脈の原因不明の非特異的炎症である.その結果,血管狭窄,閉塞,拡張などにより,脈なしや高血圧を生じる.今回,われわれは冠動脈,内頸動脈,腎動脈の狭窄を生じ,PTA,ステロイド治療により血管狭窄が改善しつつある症例を経験したので報告する.【症例】14歳の男.5 歳時,就学前検診で,上室性期外収縮のため受診.基礎心疾患なく,心機能も正常であった.12歳時に激しい運動で息切れ,頻脈,左室駆出率54%と低下.HANP 54pg/ml,BNP 97pg/mlと軽度上昇.心不全を認め,ジゴシン,エナラプリルを内服し,軽快した.今回,脈拍の減弱,高血圧,胸部X線で下行大動脈の蛇行を認めたため,大動脈炎症候群を疑い,精査目的で入院した.【検査所見と経過】心血管造影で,左冠動脈主幹部は高度狭窄であった.左総頸動脈が極めて細く,左椎骨動脈よりsupplyされていた.両側の腎動脈狭窄があり,大動脈炎症候群のIV型と診断した.両側の腎動脈にPTAを実施した.PTA終了後より無尿となり,急性完全閉塞と判断し,24時間後に両側腎動脈にステントを留置し,腎不全を回避することができた.退院後,左冠動脈主幹部の高度狭窄に対する治療目的で心臓外科に紹介した.ステロイド治療を開始し,炎症所見が落ち着いた段階で冠動脈バイパス手術を予定した.しかし,その後,ステロイド治療により,冠動脈狭窄,総頸動脈の狭窄も軽減しているため,冠動脈バイパス術は中止した.【考察】本症に対する治療経験がなく,患者の自覚症状に乏しく,特異的診断マーカーもないため,診断や治療が遅れたことは否めない.本例はステロイド療法が有効で,腎動脈に対しPTAより最初からステロイドを試みたほうがステントも留置せずに有効であったかもしれない.今後,冠動脈主幹部狭窄,血管内留置したステントの経過を慎重に観察していく予定である.

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