I-P-29
血管炎症候群の母児例―母:高安動脈炎,男児:川崎病―
国立病院機構福山医療センター小児科
荒木 徹

【はじめに】高安動脈炎(以下TA),川崎病(以下KD)は現在も原因不明であるが,それぞれ血管炎症候群の大血管炎,中血管炎に位置付けられている.われわれは,妊娠中にTAを発症した23歳女性と,出生児が11カ月時にKDを発症した母児例を経験したので報告する.【症例 1】23歳,女,TA.第 2 子妊娠中32週時に発熱と胸背部痛で発症した.CRP高値(14~21mg/dl)が持続し,抗生剤等で加療されるが改善なく,原因不明の母体感染症として33週に帝王切開術施行され男児(症例 2)を出産した.その後,上行大動脈~大動脈弓と分枝の血管壁肥厚(CT・MRI・エコー等)と,左総頸動脈・左鎖骨下動脈のびまん性狭窄(血管造影)を認め,TAと診断した.ステロイド投与により症状改善するが減量困難のため免疫抑制剤を併用している.HLAB 52,B 62(15)陽性.【症例 2】11カ月,男,KD.発熱,頸部リンパ節腫脹で発症.3 病日までに眼球結膜充血,口腔内発赤,発疹を伴いKDと診断した.同日CRP 17.08mg/dl,IVIG 2g/kg/回を行ったが完全には解熱せず,6 病日にIVIG 1g/kg/回を追加し 7 病日に解熱した.以後再燃なく冠動脈変化を含めた心後遺症もなかった.HLAB 62(15)陽性.【考察】TA,KDはともに多因子疾患と考えられているが,家族内発生の報告も多く宿主要因の存在も推測されている.特定のHLA抗原は単一では発症原因とはならないが感受性閾値を下げるとされ,TAではHLAB 52,B 39.2との関連が強く,症例 1 で出現していた.一方,KDでは一定の見解がなく無関係とする意見もあるが,HLAB 15と関連する報告もあり両症例の発症素因も考えられた.TA,KDはそれぞれ組織特異性の相違はあるが細胞性免疫機序の類似性の報告もあり,両疾患の発症を関連付ける因子の母児間伝達も推測され,両疾患の原因・関連性を探るうえで貴重な症例と考えられた.

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