I-P-31
無症状で経過し腹部聴診にて偶然に発見された腹部大動脈瘤の幼児例
聖マリアンナ医科大学小児科学1),聖マリアンナ医科大学心臓血管外科学2),聖マリアンナ医科大学病理学3)
都築慶光1),麻生健太郎1),水野将徳1),有馬正貴1),後藤建次郎1),栗原八千代1),村野浩太郎1),近田正英2),高野俊史3),田所 衛3),幕内晴朗2)

小児の腹部大動脈瘤は,非常にまれな疾患で,腎動脈狭窄に伴う高血圧症状を呈し発見される報告が多い.今回われわれは,無症状で経過し,腹部聴診で偶然発見された腹部大動脈瘤の幼児例を経験した.文献的考察を加え報告する.症例は 3 歳男児,気管支肺炎のため入院した.妊娠分娩は特に問題なく,家族歴,既往歴も特記事項はなかった.入院時,腹部聴診にて臍上部に血管性雑音を聴取し,血圧の上下肢差を認めた.腹部造影CTを行ったところ,腎動脈分岐部と腸骨動脈分岐部の間に径10 × 24mmの腹部動脈瘤とその前後の狭窄を確認した.後に行った血管造影検査では,下行大動脈に瘤を確認し,瘤の直上に高度な狭窄を確認した.腎動脈の狭窄はなく,豊富な側副血行路の発達を認めた.瘤の中枢側と右足背動脈で同時圧を測定したところ,瘤の中枢側82/49(66),右足背動脈43/33(39)と圧較差を確認した.次に中枢側狭窄部直上でバルーン閉塞テストを行ったところ,瘤の中枢側96/56(78),右足背動脈21/18(19)と血圧の低下を確認した.瘤の前後の側副血行のみでの下肢の血流の確保は困難と考え,グラフト置換術を行った.術中,瘤の内部には,肉眼的に血栓の形成,石灰化はみられなかった.術後の造影CT検査,血管造影検査でグラフト吻合部の狭窄を認めたが,グラフト中枢側と右足背動脈の間の血圧差はわずかで経過観察となった.過去の症例を検討した場合,多くの症例で問題となっているのは腎動脈血流低下に伴う腎性高血圧であるが,本症例は,腎血流は保たれており,無症状で経過していた.腹部聴診で発見される血管病変もあり,腹部聴診の重要性を再確認させられる症例であった.

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