I-P-48
小児心疾患患者における塩酸バンコマイシンの至適血中濃度―腎機能からみた血中濃度上限についての検討―
埼玉医科大学小児心臓科
竹田津未生,熊倉理恵,岩本洋一,石戸博隆,松永 保,先崎秀明,小林俊樹

バンコマイシン(VCM)は,成人ではトラフ値 5~15mg/l,ピーク値40~50mg/lが目標血中濃度とされ,通常トラフ値15mg/lを超えなければ腎障害の危険はほとんどないとされる.小児心疾患患者では,潜在的に腎予備能が悪い場合が多くクリアランスの推測が困難で,かつ体内分布容積も個々の血行動態により異なるため,VCM使用に当たり厳重なtherapeutic drug monitoring(TDM)を必要とするが,小児心疾患患者にTDMを行うにあたり,至適血中濃度が成人と同様かどうかは検討されていない.【方法】2003年以降,TDMに基づくVCM投与を行った小児心疾患患者34例,48回の投与(日齢11~16歳,体重1.9~48kg)を対象とし,トラフ値,ピーク値と腎障害の出現率の関係を検討.【結果】初期VCM投与量は 9~15mg/kg/dose,1~4 回/日.投与開始後のVCM血中濃度で,トラフ値 5mg/dl以下(N = 5)では腎障害はなく,5~10mg/dl(N = 16)でもピーク値が45を超えた 1 例でクレアチニンが上昇したのみであった.トラフ値10~15mg/dl(N = 14)では,10例がBUN,クレアチニンのいずれかが上昇し,7 例でTDMに基づく投与計画にもかかわらずその後のトラフ値が目標上限値を超えた.15mg/dl以上(N = 13)では,腎障害が11例,その後の血中濃度の過上昇が 9 例でみられた.ピーク値は45mg/dlまでのもの(N = 39)でトラフ値が10mg/dlを超えないものでは腎障害出現は 1 例のみで,45mg/dlを超えたものではトラフ値が高い 6 例で腎障害がみられたが,トラフ値 < 10mg/dlの 2 例では腎障害はみられなかった.【結語】小児心疾患患者においてはVCMトラフ値10mg/dlを超えると高率に腎機能悪化とクリアランスの変化に起因すると思われる血中濃度の上昇があり,トラフ値 5~10mg/dlが安全域と考えられた.ピーク値については45mg/dlまでは安全に使用し得ると思われた.

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