I-P-64
明らかなDCM発症前のDMD患者に対しACE阻害薬・β遮断薬を投与し奏功したと考えられた 1 例
埼玉医科大学小児心臓科
石戸博隆,小林俊樹,先崎秀明,松永 保,竹田津未生,岩本洋一,熊倉理恵

【背景】Duchenne型筋ジストロフィ(DMD)や福山型筋ジストロフィ症例では,遠隔期に拡張型心筋症(DCM)により心臓死する可能性が問題とされ,また呼吸筋退縮による症状に先立ち心不全が急速に進行する症例は急速に死に至る可能性があり,心不全の早期発見と予防治療が重要である.昨年われわれも報告した通り,心エコー上心機能低下が観察された時は心不全症状の有無にかかわらずACE阻害剤(またはAT3B)を開始し,進行例ではβ遮断剤を少量より開始すべきとされているが,どの時点から治療を開始すべきであるかについては定見がない.今回われわれは,軽度の左室拡張のみを呈したDMD症例に対しACE阻害薬およびβ遮断薬を投与し早期より一定の効果を得た症例を経験したので,多少の文献的考察も含め報告する.【症例】16歳男性.DMD兄弟例の兄.幼少期よりASDを指摘され,根治術を繰り返し勧められるも両親が拒否し来院途絶.弟が急速に進行する心不全からDCMを指摘されたのに伴い再通院.自覚症状なし.初診時体重35kg,X線上CTR 55%,BNP = 5.7pg/ml,心エコー上RVDd = 25mm・LVDd = 47mm(115%N)でEF = 60%と,ASDならば本来小さいはずの左室が拡張していた.両親同意のもと,少量よりenalapril,次いでcarvedilolを開始しそれぞれ漸増した.enalapril 開始後 6 カ月・carvedilol開始後 4 カ月の時点ではX線上CTR 50%,心エコー上RVDd = 27mm・LVDd = 34mmと明らかな左室径の改善を認め,LVDdも65%であった.投与中ふらつきや血圧異常低下などの副作用を認めず,血液検査上腎機能も正常範囲を保った.【考察】本症例は左室拡張を呈したため早期のDCMと判断し投薬を開始したが,ASD合併症例のため右心系の反応に注意を要した.今後は症例数を蓄積し,心機能低下顕性化以前からの内服治療の効果を判定し,DMD患者の心不全治療の向上に役立てる必要がある.

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