I-P-68
Bisoprololが奏功した閉塞性肥大型心筋症の16歳男児例
東京医科歯科大学医学部附属病院小児科
石井 卓,土井庄三郎,脇本博子,佐々木章人,東 賢良

乳幼児期に閉塞性肥大型心筋症と診断され,継続的な薬物療法を行っている16歳男児.心疾患以外に自閉症があり,養護学校に通学中である.肥大型心筋症に対する薬物療法として,まずβ遮断薬であるpropranololと利尿薬の内服を開始し,β遮断薬であるcarvedilolとCa拮抗薬であるverapamilの追加および増量を行った.ただ,症状のコントロールは困難であり,思春期に左室流出路狭窄の増悪とともに,NYHA 3 度の心不全症状が出現したため,15歳時に心臓カテーテル検査を行った.その際の薬物負荷試験でIa群抗不整脈薬であるcibenzolinの静注は,左室流出路圧較差45mmHgを10mmHgへ改善した.検査後cibenzolinの内服を追加し投与量を漸増したが,左室流出路狭窄・心不全症状の改善はみられなかった.このためβ遮断薬としてβ1 受容体に選択性が高く,遮断力も強いbisoprololをcarvedilolに変えて導入した.β遮断薬は従来から肥大型心筋症の第 1 選択薬として用いられてきたが,受容体に対する選択性や遮断力でその効果は異なる.本症例では,bisoprolol投与により心不全症状・検査所見(血中BNP値)ともに顕著に改善した.肥大型心筋症の治療は,薬物療法のほかに外科的治療,ペーシング,アブレーションがあるが,侵襲度や長期的な合併症の出現という点を考えると特に小児期では選択し難いのが現状である.薬物治療として,従来の治療に加えて,cibenzolinにより左室内圧較差の減少や左室拡張不全の改善を認めたという報告は多い.また,β遮断薬のなかでも,選択性が高く遮断力の強いものを選択することで症状の改善がみられることがある.本症例の治療経過・各種検査結果を提示するとともに,肥大型心筋症の治療について内科的治療を中心に最近の知見を報告する.

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