I-P-71
肝肺症候群の病態生理における胆汁酸の関与の可能性
東京医科歯科大学生体材料工学研究所システム研究部門制御分野1),コロラド大学ヘルスサイエンスセンター肺血管研究所2),東京医科歯科大学発達病態小児科学講座3)
今村公俊1,2),今村由紀2),Carter Ethan P2),土井庄三郎3),東  洋1),Garat-Carter Chrystelle V2)

肝肺症候群(hepatopulmonary syndrome)は(1)重症肝疾患,(2)肺小血管の拡張,(3)低酸素血症を 3 主徴とする肝疾患の合併症である.このうち特に臨床的に重要である低酸素血症は低酸素性肺血管収縮が失われることによる換気血流不均衡から生じるとされている.ただし,当疾患において肝疾患と肺循環を結びつける因子はいまだ解明されていない.今回われわれは肝肺症候群のモデル動物である総胆管結紮術(common bile duct ligation)を施した肝硬変ラットを用いて肝肺症候群の発症のメカニズムを検討した.まず血液循環右室循環肺の実験を行い,そこで肝硬変モデルラットから得た血液で右室循環肺を循環させることで低酸素性肺血管収縮が阻害されることを見出した.ここで肝硬変ラットの循環血中に蓄積する物質のうち,胆汁酸はかねてより体循環の分野で血管拡張作用が指摘されている.そのため本研究では胆汁酸の肺循環に及ぼす影響に焦点を置いて検討した.まず,胆汁酸の一つであるケノデオキシコール酸を右室循環肺の循環液中に投与したところ,低酸素性肺血管収縮は容量依存性に抑制された.続いてケノデオキシコール酸を前投与した右室循環肺に一酸化窒素合成酵素(nitric oxide synthase:NOS)阻害薬であるNG-nitro-L-arginineを加えると部分的に低酸素性肺血管収縮は回復し,KCaチャネル阻害薬であるapaminとcharybdotoxinを加えることでさらに低酸素性肺血管収縮は回復した.以上より肝疾患において循環血中に蓄積する胆汁酸,特にケノデオキシコール酸がNOSおよびKCaチャネルの活性化を介して肝肺症候群の発症に関与している可能性が示唆された.

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