I-P-77
生体肝移植後の門脈肺高血圧の 1 症例に対するbosentanの投与経験
京都大学医学部小児科
岩田あや,土井 拓,岩朝 徹,馬場志郎,鷄内伸二,平海良美,中畑龍俊

【はじめに】生体部分肝移植術(LDLTx)術後に残存,あるいは新たに出現する門脈肺高血圧(PPHTN)に対するbosentanの投与は,副作用としての肝機能障害や,tacrolimus等の免疫抑制剤との相互作用などの重要な問題があり,慎重さが要求される.今回われわれは,種々の理由からLDLTx術後のPPHTNの 1 例に対しbosentan投与を開始した.【症例】多脾症,先天性門脈欠損により重度の肺動静脈瘻を発症し,5 カ月時LDLTxを施行された 2 歳男児(2004年当会で報告).術後肺動静脈瘻は順調に改善したが,代わってPPHTNが顕在化し,24時間酸素吸入,beraprost内服を開始したが徐々に増悪.epoprostenol等の治療追加が検討された.一方,LDLTx術後のため腹腔内では癒着や腸間膜吸収能低下が生じており,合併する多発性脳膿瘍後の水頭症に対するVPシャントが機能不全を来し,脳室心房(VA)シャント等へのconversionが企図されていた.VAシャントと中心静脈ラインが上大静脈で競合するという医療上の問題に加え,LDLTxという大きな手術後,脳室シャントに加え中心静脈ラインまでつながれることの不憫さを家族が強く訴えたため,bosentanを導入することとした.拒絶出現時にはmycophenolate mofetilを開始することとし,tacrolimusを徐々に減量,中止後bosentanは0.7mg/kg分 2 から投与を開始.肝機能や拒絶出現,薬剤相互作用に注意しつつ徐々に 3mg/kg/dayまで増量した.この間,特にトラブルは生じなかったが,PPHTNの改善は得られていない.【考察】門脈圧亢進にエンドセリンの関与が示唆される報告があり,PPHTNに対してもbosentanの効果は期待できると考えた.しかしながら現在まで目立った効果は得られておらず,今後の治療に苦慮している.LDLTx後という特殊な状況ではあったが,症例によっては慎重な検討のうえ,bosentanの導入は可能と考えられた.

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