II-B-52
左心低形成症候群に対する両側肺動脈絞扼術後の動脈管の自然歴と機序―臨床的,免疫組織学的検討―
三重大学大学院医学系研究科小児発達医学1),三重大学大学院医学系研究科胸部心臓血管外科2)
三谷義英1),澤田博文1),大橋啓之1),早川豪俊1),高林 新2),新保秀人2),駒田美弘1)

【背景と目的】左心低形成症候群(HLHS)に対して両側肺動脈絞扼術(PAB)後 2 期的Norwood/Glenn手術(N/G)を施行する治療戦略により,Fontan型手術へ到達可能であることを報告した.しかしPAB後lipo-PGE1持続投与下の動脈管の自然歴とその機序は不明である.今回,臨床検査所見と動脈管組織を検討したので報告する.【対象と方法】対象は新生児期にPABを施行し,lipo-PGE1投与後,生後 3~4 カ月にN/Gを施行したHLHS 5 例.動脈管を心エコー検査,N/G前の心血管造影検査(ACG)で評価し,術中摘出動脈管標本を免疫組織学的に検討した.【結果】症例はAA 2 例/AS 3 例,生下時体重3.3 ± 0.2kg,上行大動脈径3.2 ± 1.5mm.PABは10.2 ± 4.3日,最終ACGは102.4 ± 32.5日,N/Gは121.4 ± 21.9日(体重4.2 ± 0.6kg)に施行.動脈管は全例N/Gまで開存し,最終ACG上,長さ12.7 ± 4.6mm,Ao側径5.2 ± 3.1mm,PA側径7.4 ± 0.9mmであった.しかし全例大動脈側動脈管に種々の程度の内膜肥厚を認め,徐々に進行した.最終的に 3 例は圧較差なく,1 例は後期に圧較差が出現したがN/Gまで経過観察可能で,1 例は早期に圧較差が出現し,1 カ月でPA-AO graft手術を施行した.最後の 1 例はPAB前から,圧較差を認め,予測可能であった.大動脈峡部は最終ACG上5.7 ± 1.1mm,全例で狭窄の出現を認めなかった.組織学的検討では,動脈管Ao側に細胞成分に富む内膜肥厚を認め,特に圧較差を認めた 2 例で著明でvasa vasorumを認めた.免疫組織学的検討で,肥厚した内膜はSM-1 陽性,SM-2 陰性の脱分化型平滑筋で,少数のmacrophageの浸潤も認めた.【結語】HLHSに対し,PAB後PGE1持続投与により長期に動脈管が開存したが,徐々に進行する内膜肥厚が動脈管狭窄を来し臨床的に問題となった.内膜肥厚には脱分化型平滑筋の増殖の関与を考えた.これらの所見は,HLHSに対する本治療戦略の基礎となり,動脈管に対する薬物,遺伝子療法,カテーテル治療を考えるうえで重要である.

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