II-E-54
歯痛が狭心症状であった血管攣性狭心症の13歳女児例
千葉県立東金病院小児科1),前千葉県こども病院循環器科2),千葉県立東金病院内科3),千葉県立東金病院外科4)
岡嶋良知1,2),平井愛山3),山崎将人4)

13歳女児,家族歴は特になし.10歳頃より時々歯痛を訴え,悪寒,めまい,立ちくらみ等も訴えることがあった.2000年11月,登校後,歯痛から呼吸困難を訴えて昇降口で倒れ,救急車にて某病院へ搬送.血圧88/52mmHg,心拍数69,体温35.5℃,頭部CTに所見なし.外来で補液し,後日,小児科での検査を受けるように指示され帰宅.1 週間後,東金病院小児科受診.一般採血,脳波,心電図,胸部X線検査を受け,念のため,千葉県こども病院循環器科を紹介され,受診.理学的所見を認めず,心電図にST変位や異常Q波はなく,V6でT波の平坦化がみられたが,正常と判断(日本小児循環器学会の判定基準).学校生活に支障はなく,経過観察となった.不定愁訴が多く,精神科にもコンサルトするなど,歯痛が狭心症状であることが想起されなかった.その後,呼吸困難などの症状の再燃はなく,一時,フォロー中断.しかし,半年後の2001年 7 月,前夜に激しい苦悶,歯痛などを訴え,臥床.翌朝,症状が和らぎ,登校したが,昇降口で倒れ,心肺停止状態となった.救急隊による蘇生を受けつつ東金病院に搬送されたが死亡.剖検では,左室側壁に心基部から心尖部に至る新鮮および陳旧性心筋梗塞が巣状に散在し,冠動脈に瘤,血栓はなく,内膜の著しい肥厚を認めた.梗塞後の線維化が健常心筋内に散在し,血管攣縮によると考えられ,冠動脈の内膜肥厚は反復した血管攣縮に伴う非特異的な反応と判断された.数年にわたり繰り返し出現した歯痛は,狭心症に伴う放散痛であったと考えられた.血管攣縮性狭心症は,小児・思春期例の報告も散見されるようになったが,その実態の解明は不十分である.学校での児童・生徒の突然死例の一部は本症の可能性もあり得る.狭心症状は胸痛以外にも,患児のように放散痛のみのことがあり,家族歴,既往歴に危険因子のない若年者であっても,本症も考慮した慎重な鑑別が必要であると考えられた.

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