II-E-56
二尖弁の肺動脈弁を有するファロー四徴症における肺動脈弁温存の予測値
東京大学医学部胸部外科1),東京大学医学部小児科2)
土肥善郎1),村上 新1),高岡哲弘1),益澤明広1),高本眞一1),林 泰祐2),小野 博2),杉村洋子2),渋谷和彦2),賀藤 均2)

【はじめに】ファロー四徴症(TOF)手術症例では周術期の心機能低下の軽減,遠隔期の不整脈や肺動脈弁逆流による再手術を回避すべく,可能な限り右室切開を行わず肺動脈弁を温存する治療方針に異論はない.しかし,二尖弁の肺動脈弁を有する症例においては術前評価で肺動脈弁輪径がさほど狭小でなく弁温存が可能と考えられていても右室切開を必要とすることを多く経験する.【対象】2000年 1 月~2005年12月にTOF根治手術症例で,術前評価にて肺動脈弁輪径がZ値 -2 以上でありかつ術中に肺動脈弁が二尖弁であった12例を対象とした.平均年齢は15カ月(10~18),平均体重は8.5kg(6.4~10.7),体表面積は平均0.39(0.29~0.48),肺動脈弁の平均Z値は -0.8(-2~1.4)であった.PA indexは平均337(206~590)で全例において末梢の肺動脈の発育は良好であった.根治手術までに 3 例に対し体動脈-肺動脈短絡手術を施行した.【結果】肺動脈弁温存手術を 5 例に施行した.肺動脈弁温存手術は,術前評価で肺動脈弁輪径のZ値が -2 であった 1 例で温存が可能であったものの,その他の 4 例はZ値が -0.3以上の症例であり,Z値が -0.4以下であった 7 例では右室切開を伴う一弁付きパッチを使用した右室流出路形成を施行した.交連切開と右室小切開を行った 1 例で肺動脈弁逆流と術前より認めた三尖弁逆流の増悪により術後 2 年で肺動脈弁置換と三尖弁形成術を行ったものの,その他の症例における肺動脈弁逆流は軽度以下であり,また術後の右室流出路での圧隔差は 9mmHg(0~20)で,右室流出路狭窄による再手術例は認めなかった.【結語】二尖弁の肺動脈弁を有するTOF例で肺動脈弁温存を図るには,Z値で -0.3以上すなわち正常値同等の肺動脈弁輪径が必要であった.それゆえ,本疾患群においては肺動脈弁の温存手術が可能でない症例も多く,肺動脈弁逆流をいかに最小限に抑えるかが周術期および遠隔期の成績向上につながるものと考えられた.

閉じる