II-P-21
遷延する肺高血圧を合併した重症大動脈弁狭窄症の 1 乳児例
東京大学医学部附属病院小児科1),東京大学医学部附属病院心臓外科2)
林 泰祐1),杉村洋子1),戸田雅久1),小野 博1),中村嘉宏1),渋谷和彦1),村上 新2),賀藤 均1)

【症例】2 歳男児.在胎40週 0 日,3,762g,自然分娩にて出生した.口唇口蓋裂を認め某病院を受診した際に,心雑音が聴取され,心エコーで左心低形成症候群を疑われ入院となった.両親の希望で日齢53に当院に転院した.左室内腔は心尖部まで存在し,大動脈弁尖は肥厚しdomingしており,重症大動脈弁狭窄症(AS)と考えられた.左室EF24%,大動脈弁圧較差は21mmHgであり,afterload mismatchの状態であった.左室の心内膜のエコー輝度が増加し,心内膜線維弾性症(EFE)の存在が疑われた.バルーン大動脈弁形成術(BAV)時の心臓カテーテル検査では左室拡張末期圧(LVEDP)は30mmHg,肺動脈平均圧(mPAP)は59mmHgと上昇していた.大動脈弁輪径(AAD)が6.5mm(Z = -1.5),左室拡張末期容積(LVEDV)が9.3ml(Z = +0.6)であり,2 心室修復を目指す方針として,日齢54,4 カ月,11カ月および 1 歳時に計 4 回のBAVを施行した.4 回目のBAV時のAADは9.4mm(Z = -0.6),LVEDVは25.5ml(Z = +2.3)と左心系の発育は良好であった.またEF 67%と左室収縮能も良好であった.LVEDPの上昇と肺高血圧は改善せず,また大動脈弁逆流(AR)が増悪傾向となったため,1 歳 3 カ月時にRoss-Konno手術を施行した.これによりASとARは軽快したが,2 歳現在も肺動脈圧は大動脈圧の 7 割程度であり,肺高血圧は依然として認められている.【考察】重症ASでEFE様の変化を来していたが,BAVにより大動脈弁輪および左室の発育が得られ,左室収縮能も改善した.LVEDPの上昇が肺高血圧の原因の一つと思われるが,Ross手術を施行した後も肺高血圧は遷延している.EFE様の変化を伴う重症ASで,新生児期より肺高血圧を来している場合,Ross手術を施行しても肺高血圧の改善は期待できない可能性があり,肺高血圧に対して早期から治療介入を行う必要があると考えられた.

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