II-P-23
進行性の異常増殖した両側巨大乳頭筋および異常腱索束により左室流出路狭窄,左室二腔症および重篤な僧帽弁逆流を来した 1 例
日本医科大学小児科1),日本医科大学外科学教室・心臓血管外科2)
渡邊 誠1),池上 英1),鈴木伸子1),初鹿野見春1),倉持雪穂1),大久保隆志1),上砂光裕1),深澤隆治1),勝部康弘1),山内仁紫2),小川俊一1)

【臨床経過】症例は 4 歳の男児.2003年 4 月近医にて収縮期雑音を指摘され,当科紹介受診.異常に増殖した両側巨大乳頭筋および異常腱索束による左室流出路狭窄,および心尖部の心筋緻密化障害と診断し,経過観察していた.2005年 1 月頃より軽度の労作時易疲労性が出現,左室流出路狭窄の増悪,僧帽弁閉鎖不全の合併が認められた.抗心不全治療(BNP:200~220)にても左室流出路狭窄および僧帽弁閉鎖不全は進行性であり,同年 8 月に心臓カテーテル・アンジオを施行.左室拡張末期圧は10mmHg,主肺動脈平均圧は25mmHg,右肺動脈平均楔入圧は19mmHgと高値を呈した.異常に増殖した前乳頭筋および異常腱索束により約70mmHgの圧較差の左室流出路障害,および両側巨大乳頭筋による約40mmHgの圧較差の左室二腔症が認められた.左室造影にて左室拡張末期容量は111.9ml(232% of normal)と拡大,左房も著しく拡大し,左室駆出率は45%と低下.III~IV度の僧帽弁閉鎖不全が認められた.外科治療の適応と考え,2005年10月に巨大乳頭筋切除による左室流出路形成術,左室二腔解除術およびon-X valve 23mmを用いた僧帽弁置換術を施行した.【手術時所見】両乳頭筋はともに異常に肥厚した肉塊をなし,先端部からは短い異常な腱索束が伸び,それらが僧帽弁弁尖に付着していた.特に前乳頭筋は弁下組織から流出路にかけて広範囲に肥厚線維化を認めていた.左室心筋生検では心内膜の線維性肥厚が著明であり,内膜内の一部には不規則に交錯する平滑筋束を認めた.しかし,心筋細胞は大部分が正常な胞体であり,肥大や錯綜配列は認めなかった.乳頭筋にも組織学上特に異常所見は認められなかった.【まとめ】本症例は進行性の異常に増殖した両側巨大乳頭筋および異常腱索束により惹起されたものであり,今後も増悪することも考えられ,注意深い経過観察が必要である.

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