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僧帽弁腱索断裂による僧帽弁逆流を生じたBasedow病の 1 症例
久留米大学医学部小児科1),久留米大学循環器病研究所2),飯塚病院小児科3)
石井治佳1),須田憲治1),岸本慎太郎1),籠手田雄介1),家村素史2),工藤嘉公1),伊藤晋一1),江上公康3),松石豊次郎1)

【背景】僧帽弁腱索断裂を伴った僧帽弁逆流(MR:mitral regurgitation)については,小児では外傷などまれな状況以外での報告は少ない.一方Basedow病は洞性頻脈や僧帽弁逸脱を起こすことが報告されている.今回私たちは重症MRと診断しその治療経過中にBasedow病と判明したまれな症例を経験したので報告する.【症例】3 歳,女児.家族歴,既往歴ともに特記事項なく心雑音を指摘されたことはない.今回,熱性痙攣で近医に入院.心雑音とHR 180/分の頻脈に気づかれ,心エコーで重症MRと診断.当院に搬送された.来院時身体所見では,聴心上gallop rhythmと心尖部に最強点を持つLevine 3/6 度の汎収縮期雑音を認めた.心エコーで重症MRの原因として僧帽弁前尖腱索の一部断裂と前尖の高度逸脱を認めた.心電図上,左房負荷と中等度の左室肥大を認め,長期における左心負荷があったことが示唆された.利尿剤,ACE阻害剤の内服治療開始後,全身状態は安定.しかし血行動態安定にもかかわらずHR 150~160/分の頻脈は続いた.経過観察中,軽度の甲状腺腫大に気づき,血液生化学所見でBasedow病と診断した.FT3 32.6pg/ml,FT4 7.77pg/dlの高値.TSH 0.009μIU/Lの異常低値.TSH-antibody 772%の高値を認めた.抗甲状腺ホルモン内服を開始し,現在治療中である.前医での痙攣以降痙攣はなく頭部CT,EEGでは異常を認めていない.なお,本症例は興味深いことに僧帽弁逸脱の他の原因としてMarfan症候群を疑わせる所見をいくつか認めた.arm span/BH = 1.0で,BH 110cm(+3.7SD),BW 15kg(+0.4SD)の手足の長いやせ形の高身長である.現時点ではMarfan症候群の診断基準は満たしていない.【結論】僧帽弁腱索断裂によるMRとBasedow病を合併したまれな症例について報告した.Basedow病が本症例の僧帽弁腱索断裂に関与していると考えた.本症例のような僧帽弁腱索断裂によるMRをみた場合,原因検索の一環として甲状腺機能検査も行う必要がある.

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