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急性肺水腫で発症した僧帽弁腱索断裂による僧帽弁逆流の 1 例
関西医科大学小児科1),関西医科大学心臓血管外科2)
寺口正之1),吉村 健1),池本裕実子1),野木俊二1),金子一成1),角田智彦2),服部玲治2),今村洋二2)

乳児における僧帽弁腱索断裂による僧帽弁逆流(MR)はまれであるが,今回私たちは急性肺水腫で発症した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.【症例】4 カ月,女児.主訴:顔面蒼白,呼吸促迫.既往歴・家族歴:特記すべきことなし.現病歴:入院当日,哺乳後に不機嫌,顔色不良が出現したため,近医受診.全身状態不良で心雑音を聴取したため心原性ショックの疑いで発症 9 時間20分後に当科入院.入院時,意識レベルの低下,チアノーゼ,あえぎ呼吸,高度の陥没呼吸がみられショック状態であった.心拍数158/分,心雑音は心尖部に 3/6 認めた.肝を 5cm触知.胸部X線写真で肺うっ血を,心エコーでは中等度MRとともに僧帽弁後尖逸脱と腱索断裂を認めた.左室収縮能は正常.血液検査:白血球数47,600/μl,CRP 2.25mg/dl.血液培養:陰性.以上の所見からMRによるうっ血性心不全・肺水腫と考え,気管内挿管のうえ,人工換気を開始しカテコラミン,利尿薬,血管拡張薬を投与した.これらの治療によって,血行動態の改善が得られ入院 9 日目に抜管した.しかし心エコーでは,MRは改善せず,左房・左室の拡大が著明になった.入院57日目に行った心臓カテーテル検査では肺動脈楔入圧は左右とも平均15mmHg,主肺動脈は33/16/平均22mmHgであった.MRは高度(左室拡張末期容積は正常の237%)であったが左室駆出率は0.67と保たれていた.以上より手術適応と判断し,入院92日目(生後 7 カ月時)に僧帽弁形成術を施行.術中所見では断裂によると思われる僧帽弁後尖腱索欠損が確認された.また僧帽弁の切除標本では炎症性細胞浸潤はみられなかった.術後経過は良好で,術後33日に退院した.【結語】乳児期における急性肺水腫の原因として,腱索断裂によるMRも考慮すべきであると思われた.心内膜炎に伴う腱索断裂が疑われたが,原因は明らかにできなかった.乳児の腱索断裂によるMRについて若干の文献的考察を加える.

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